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リストル:企業データベース開発日誌 第30話(最終話)「消した一行」〜コンプライアンスとデータガバナンス。顧客データを学習に使わない「規約」が守るシステムの誠実さ〜

リストル:企業データベース開発日誌 第30話「消した一行」〜コンプライアンスとデータガバナンス。顧客データを学習に使わない「規約」が守るシステムの誠実さ〜

💡Listoru(リストル)は、Web上の情報から企業の営業リストを自動で収集・作成するツールです。
この「企業DB開発日誌」では、数ある機能の裏側に隠された、私たちの試行錯誤を綴っていきます。
エラー画面には出ない問題や、データとの静かな対話から見えてきたもの。
正解のない開発現場のリアルな空気を、少しだけおすそ分けさせてください。
今日もリストルの裏側で起きた、ひとつの物語をお届けします。

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プロダクト要求仕様(PRD)と乖離したコピーライティング。データサイロ化による「精度向上」の事実誤認

この連載も、最後になりました。
ここまで、直した話ばかりを書いてきました。

3秒足りなかった話。
列がずれていた話。
順番の来ない300社の話。

どれも、動くものを直した話です。

最終話は、少し違います。
消した話です。
正確には、何も起きなかった話です。
事故もなく、損失もなく、お客様に影響も出ていません。

ただ、一行を消しただけの日のことです。

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それでも、この連載の最後に置くことにしました。
いちばん、こちらの仕事の性質が出ていると思ったからです。

直した話は、書きやすいものです。
間違いがあって、原因があって、対応がある。
形が決まっています。

書きにくいのは、何も起きなかった話のほうでした。
起きなかったことは、数えられません。
消した一行は、どこにも残らないからです。
残らないもののことを、最後に、残しておこうと思いました。

ある日、サービスの説明文を書いていました。
新しい機能について、どう伝えるかを考える作業です。
営業のスコアの話でした。

こちらのシステムには、その会社が見込み客としてどれくらい有望かを、数字で示す仕組みがあります。
その説明として、こう書きかけました。
「使う会社が増えるほど、精度が上がります」
よくある一文です。

同じような表現は、どこにでもあります。
書いていて、手が止まる理由もありません。
それらしく聞こえますし、実際、そういう仕組みを持っているサービスはあります。

正直に言えば、確認するつもりはありませんでした。
自分で作ったものですし、だいたいの作りは頭に入っています。
手が止まったのは、「精度」という言葉を書いたときでした。

この連載は、いつも、同じところから始まっていました。
数字を眺めていて、手が止まる。
最終回だけは、自分の書いた一文の前で、手が止まりました。

精度が上がる、と書くなら、何がどう上がるのかを説明できなければいけません。
説明しようとして、説明できないことに気づきました。
だから、確かめに行きました。自分たちのプログラムを、読みに行ったのです。

そんな仕組みは、ありませんでした。
スコアの計算は、その会社自身のデータだけを見ています。

その会社の過去の受注。
失注した案件。
接触の履歴。
自社のプロフィール。

他のお客様のデータは、1件も入っていません。
つまり、利用する会社が増えても、それぞれのスコアの精度は、上がりません。

利用規約(TOS)とコンプライアンスの遵守。顧客の機密データを「学習データ」に転用しないデータガバナンス

ここで、いったん考えました。
書きかけの一文が間違っていたなら、直せばいい。それだけの話のはずです。
ただ、なぜその一文を書こうとしたのかが、気になりました。
こちらの中に、「そう書けたらいいのに」という気持ちがあったからです。

さらに、もう1つ確かめました。
自分たちの利用規約です。
そこには、お預かりしたデータの扱いが書いてあります。

  • データは、お客様に帰属すること。
  • 目的の外に使わないこと。
  • AIの学習に使わないこと。
  • 退会されたら、消すこと。

つまり、他社のデータを使って精度を上げる仕組みは、作ろうとしても、作れません。自分たちで、そう約束しているからです。

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ここで、選択肢は2つありました。

ひとつは、その一行に合わせて、仕組みを作ること。
他のお客様のデータを使って、スコアを賢くする。
技術的には、できます。

けれど、そのためには規約を変える必要があります。
お預かりしたデータの使い道を、こちらの都合で広げることになります。

やりません。

理由は、道義の話だけではありません。
お客様が預けているのは、自社の受注と失注の履歴です。

どの会社に、いくらで、なぜ売れたか。
なぜ、負けたか。
これは、その会社の商売そのものです。

それを、こちらが集めて、別のお客様のために使うということは、競合他社に手渡すのと変わりません。
同じ業界のお客様が2社いれば、必ずそうなります。
技術の問題ではなく、成り立たない約束でした。

もうひとつは、その一行を消すことです。

消しました。

振り返ると、この選択は、その日に決めたものではありませんでした。
規約を書いた日に、決まっていました。

落ち着いているときに交わした約束が、「そう書けたらいいのに」が顔を出した日に、効きました。前回、先に手順を決めておく話を書きました。
約束も、同じ働き方をします。

消すと決めたあと、少し困りました。
その一行は、他社との違いを説明する部分にありました。
同じようなツールは、いくつもあります。
選ばれる理由を、何かで書かなければいけません。

書けることを探して、自分たちの画面をもう一度見て回りました。

そこにあったのは、受注と失注を記録するほど、その会社の判断が積み上がる、という地味な仕組みでした。

派手ではありません。けれど、確かに、そう作ってあります。
代わりに、こう書きました。
「自社の受注・失注を記録するほど、自社のスコアが育ちます」

地味な一文です。
インパクトはありません。

会社が増えても、精度は上がらない。
上がるのは、自分たちで記録を積んだぶんだけ。
けれど、これは全部、本当のことです。

バニティメトリクスより恐ろしい「数字のない一文」。ファクトチェックとUI要件のトレーサビリティ

この連載で書いてきたのは、ほとんどが、数字を見て気づいた話でした。

3秒。300社。47ギガバイト。618社。7割。

どれも、数字を並べ替えて、はじめて見えたものです。

数字は、正しく並べたときだけ、正直です。
並べ方を間違えれば、平気で嘘をつきます。

そして、いちばん嘘をつきやすいのは、数字ではなく、数字のない一文でした。

「精度が上がります」

この一文には、何の数字もありません。検算のしようがありません。
検算のできない文章は、書いた本人でも、本当かどうか分からなくなります。

そして、こういう一文は、たいてい他所から来ます。
どこかで読んだ表現。
その業界で、よく使われている言い回し。

自分で考えたのではなく、形だけが手元に残っているものです。
だから、書いていて疑問がわきません。
すでに、世の中で通っている文だからです。

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疑うきっかけは、「これは、うちの何を指しているのか」と考えたときにだけ来ます。

確かめに行くのは、面倒な作業です。
自分の書いた文章を疑って、プログラムを読みに行って、規約を読み直す。
たいていは、何も出てきません。時間だけがかかります。

それでも、行きます。

出てきたときに、消せるからです。
この確認を、いまは資料を作るたびにしています。
書いた一文ごとに、「これは、どの画面のことを言っているか」を確かめる。

指せない文は、消す。

やってみると、消える文は、そう多くありません。
たいていは、書き方を少し変えれば残せます。
「精度が上がります」は、どの画面も指していませんでした。

指すものが無い文は、だいたい、他所から借りてきた文です。

継続的改善とプロダクトの透明性。消した一行のあとに残る、飾らないシステムの「本当の顔」

直すことは、できます。
消すことも、できます。
消したあとに、何を書くかだけが、こちらの本当の顔になります。

30話を並べてみると、同じ形の話が、何度も出てきます。

  • エラーが出ないまま、何かが欠けている。
  • 正しい部品どうしが、あいだで食い違う。
  • 置いたときの理由が、いつのまにか消えている。

同じ形を何度も書いたのは、実際に、何度も起きたからです。
そして、たぶん、これからも起きます。

30話のあいだに変わったのは、起きる回数ではなく、起きたあとの動き方でした。

  • 数字を並べ替える。
  • 成功した側から見る。
  • 決めきれないものは、決めきれないまま持つ。
  • 迷う日が来る前に、決めておく。

どれも、特別な方法ではありません。
そして、どれも、最初から持っていたわけではありません。

この連載も、ここで終わりです。

30話分、直した話を書いてきました。
まだ直していないものも、たくさんあります。

見つかったら、また直します。
そして、たぶんまた、数字を並べ替えるところから始まります。

消した一行の場所には、いま、地味な一行が入っています。

全部、本当のことです。

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リストルは、今日もどこかを直しています。

そして、直したことだけを、書いていきます。

最終話までお読みいただきありがとうございました!

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