これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

初期設定(セットアップ)画面のUI改善。エラーメッセージの日本語化とCTAの最適化
■ オンボーディングの失敗。システムが出す「未翻訳のエラー」が招くユーザーの混乱

あるお客様から、たいへん丁寧な文面が届きました。
「申し訳ありません。私の理解が足りないのだと思うのですが、どうしても開けません」
謝られていました。こちらが謝るべき場面です。
最初にやったのは、その方の画面を、同じ状態で再現してみることでした。
初めて使うときと、まったく同じ状態にします。
立ち上げました。英語が、並んでいました。
このツールは、動くために、最初に1度だけ、下ごしらえが要ります。
必要な部品を取り寄せて、置き場所を用意する。5分ほどで終わる作業です。その作業がまだ済んでいないと、画面には、そのことを知らせる表示が出ます。
その表示が、英語でした。
こちらが作ったものではありません。中で使っている部品が、そのまま出しているものでした。
しかも、その文章には、「何をすればいいか」が一言も書かれていません。状態を伝えているだけです。
あっ、と思いました。
技術の失敗ではなく、伝え方の失敗だった。
その方の記録を見せていただきました。同じボタンを、何度も押されていました。画面の中央にある、いちばん大きなボタンです。
当然、それを押します。
押すべきだったのは、その隣にある、小さなほうのボタンでした。
こちらは、その並びを見て、どちらが何をするか、知っています。
初めて開いた方には、分かりません。
大きいほうを押すのが、当たり前です。
■ UXライティングとCTA(コールトゥアクション)の最適化。次に何をすべきかを示す3行
この1件で、いちばん考えたのは、その方が何度もボタンを押していた時間のことです。
押しても、何も起きません。画面には、読めない文字が並んでいます。
困っていることを、誰かに伝えるのも、気が引ける。
そういう時間が、しばらく続いたはずです。
そして、送られてきた文面には、こちらを責める言葉が、1つもありませんでした。
直したのは、画面の文章です。
まず、英語の表示を、そのまま出すのをやめました。
その状態を、こちらが受け取って、日本語の文章に置き換えて出すようにしました。
次に、何をすればいいかを書きました。
状態を伝えるだけでは足りません。
「最初の準備がまだ済んでいません」
「下の『準備をはじめる』を押してください」
「5分ほどで終わります。そのあいだ、画面はそのままでお待ちください」
3行です。順番に読めば、そのとおりにできます。

3つ目に、ボタンの並びを変えました。
このとき押すべきボタンを、いちばん大きくしました。
押す必要のないほうは、小さく、目立たない場所に移しました。
迷ったときに大きいほうを押せば、正しい。そういう並びにしました。
ここで、笑ってしまう話がありました。
書き直した文章を、こちらで確かめました。
立ち上げて、日本語の案内が出て、書いてあるとおりに押すと、ちゃんと進みます。
よし、と思って、その画面を閉じました。
もう1度立ち上げたところ、準備はすでに済んでいるので、案内が出ません。
当たり前です。
書き直した文章を、2度目以降は、自分では1度も見られないことになります。
初めての人だけが見る画面は、初めての状態を作らなければ、確かめられません。
初めての状態に戻す手順を用意して、直すたびに、そこから確かめるようにしました。
■ 開発者の盲点。目に触れない「初期設定(セットアップ)画面」が抱えるUI/UXの欠陥
この画面は、これまで、ほとんど誰にも見られていませんでした。
こちらで準備を済ませてからお渡しすることが多かったからです。
見られないから、直されない。直されないから、そのままになる。
いちばん最初に見られる画面が、いちばん手をかけられていませんでした。
技術の失敗ではなく、伝え方の失敗だった。

このツールは、ずいぶん賢くなりました。
待ち方も、見分け方も、記録の残し方も、300回を超える改良を重ねてきました。その全部が、最初の画面の3行のせいで、その方には1度も届いていませんでした。
どんなに中身がよくても、入口で止まれば、無いのと同じです。
この1件のあと、最初の画面を全部見直しました。
初めて開いたときに出るもの。
準備が終わったときに出るもの。
何かがうまくいかなかったときに出るもの。
どれも、これまでは「状態を伝えるだけ」の文章になっていました。
それを、全部、「次に何をすればいいか」まで書く形に直しました。
書き方の決まりも作りました。
- いま何が起きているかを、日本語で1行。
- 次に何をすればいいかを、1行。
- どのくらい時間がかかるかを、1行。
この3行を、どの画面にも必ず入れる。
英語は、そのまま出さない。どうしても出す場合は、日本語の説明を添える。
作業としては、2日ほどでした。2日で済むことを、ずいぶん長いあいだ、放っておいたことになります。
放っておいた理由も、はっきりしています。
こちらは、その画面を見る必要がありませんでした。
準備は、こちらで済ませてからお渡しします。だから、その画面は、こちらの目に触れません。
目に触れないものは、直りません。
技術の失敗ではなく、伝え方の失敗だった。
あらためて、教えてくださったことに感謝しています。
■ プロアクティブなカスタマーサクセス(CS)。「サイレント離脱」を防ぐ能動的なアプローチ
黙って使うのをやめてしまう方も、たぶん、いらっしゃったはずです。
その方たちのことは、記録には残っていません。
困っていることを言ってくださった方の数だけ、言わずに離れていった方がいる。そう考えたほうが、たぶん正しいのだと思います。
この回は、書くかどうか、少し迷いました。
こちらの落ち度の話ですし、教えてくださった方のことでもあります。
書くにあたっては、その方が誰であるか分からないようにしました。
時間も、じゅうぶんに置いています。それでも書いたのは、この種の失敗が、いちばん見えにくいからです。
届かない会社は、記録に残ります。
止まった台も、記録に残ります。
最初の画面で立ち止まった方は、どこにも残りません。
こちらの記録では、その方は「まだ使い始めていない方」に見えます。
使い始めていないのではなく、使い始められなかったのだ、ということに、こちらは自分では気づけませんでした。
3行の案内を書くのに、2日かかりました。その2日を、もっと早くに使っていれば、と思っています。
この回のあと、新しくお使いいただく方には、最初の1週間だけ、こちらから連絡するようにしました。困っていることはありませんか、ではありません。

「最初の準備は、無事に終わりましたか」
これだけです。
終わっていれば、それで話は終わります。
終わっていなければ、そこで分かります。
言い出しにくいことは、こちらから聞くしかありません。
聞かれれば、答えられます。
聞かれなければ、そのまま静かに離れていきます。
この1通の連絡で、いくつかの「開けません」を、言われる前に片付けられるようになりました。
3行の案内より、この1通のほうが効いたかもしれません。
どれだけ丁寧に画面を書いても、読まれないことはあります。
人から一言聞かれれば、たいてい、答えてもらえます。
(つづく)
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