これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

小さなPDCAがもたらす圧倒的な改善。300回のシステム改修で得た地道なアジャイル開発の真髄
■ 300回を超える小さなシステム改修。地道なトラブルシューティングの軌跡

ここまでを、いちど並べてみます。
- フリガナの呼び名が、4文字だけ違っていた。
- 電話番号を、注意書きどおりに直したあとで、親切に付け直していた。
- あらゆる確認に、「いいえ」と答えていた。
- 諦めたはずの作業が、こっそり生き続けていた。
- 更新が、1度も最後まで届いていなかった。
- 挨拶より先に、本題が来ていた。
- あと3秒、待てなかった。
- 「無理だ」と札を貼った箱の中に、600社が入っていた。
- 扉を開けた先に、もう1枚あった。
- 同じ会社に、4通送ってしまった。
- 「送信」と「送 信」を、別の言葉だと思っていた。
- 検索窓に、400字の営業文を書き込んでいた。
- .co.jp と .com を、他人だと思っていた。
- 断りの言い回しを、3つしか知らなかった。
- 届いていたものを、届いていないと記録していた。
- 名簿の3分の一は、送っても意味がなかった。
- 容疑者を全部消したら、自分たちの設定値だけが残った。
- 自分で直した仕組みが、記録を書くたびに手を下ろしていた。
- 良かれと思って足した機能で、172時間を使っていた。
- 害のない黒い画面が、毎日、人を不安にさせていた。
- 自動で作った書き付けを、1度も読んでいなかった。
- 正しい使い方が、そのまま不正の形をしていた。
- 10台がいっせいに並ぶと、誰も通れなかった。
- 回線の瞬きと、本当の異常を、区別できていなかった。
- 持ち物が欠けていることに、自分で気づけなかった。
- 文字が小さくて、読めなかった。
- 名簿を持っていることを、相手のことのように書いていた。
- 用意した件名が、静かに捨てられていた。
- 機械は理由を知っていたのに、書き残していなかった。
- 「分かりました」と書いた翌日に、それが違うと分かった。
- 3行の案内が無いせいで、全部が届いていなかった。
- 100社に2社から、5社に1社へ。
並べてみると、我ながら、なかなかのものです。
どれも、後から見れば単純な話ばかりです。難しい理屈は、1つも出てきませんでした。
難しい理屈が出てこなかったのには、理由があります。
難しいところは、たいてい、すでに誰かが作っています。
ページを開く部分も、文字を扱う部分も、こちらが作ったものではありません。
こちらがやってきたのは、その借りものを、日本の現実の中で動かすことでした。
日本の現実というのは、フリガナの呼び名が何10通りもあり、「送 信」と書くのが親切とされ、断りの言い回しが200通りある世界です。
どれも、難しくはありません。ただ、数が多い。
数が多いものを相手にするときは、賢いやり方より、地道なやり方のほうが効きます。
1件開いて、1つ直す。それを、300回。
結局、そういうことでした。
■ アジャイル運用の3つの鉄則。現場確認、モニタリング、そして「前提の疑い直し」

振り返ってみると、効いたのは、いつも同じ3つでした。
1つ目:うまくいかなかった1件を、実際に開いてみること。
記録を眺めていても、分からないことがあります。
1行の「送信できませんでした」からは、何も出てきません。
実際にそのページを開いて、自分で埋めて、押してみる。
10分で終わります。その10分で、たいてい、何かが分かりました。
2つ目:「動いている」と「正しく動いている」を、分けて考えること。
このツールは、たいてい、動いていました。
止まっていたわけではありません。毎晩きちんと立ち上がって、きちんと働いていました。
働いた形だけがあって、中身が伴っていないことが、何度もありました。
更新の仕組みは、毎日きちんと引き返していました。
下見の機能は、毎晩きちんと無駄足を踏んでいました。
どれも、記録の上では正常です。
動いているかどうかではなく、狙ったとおりのことが起きているかどうかを見る。そのためには、測るしかありませんでした。
3つ目:自分が置いた前提を、ときどき疑い直すこと。
いちばん時間がかかったのは、これでした。
165秒という数字も、「あの印があるページには近づかない」という決まりも、「入力欄があればフォームだ」という乱暴な見分けも、どれも、こちらが最初に置いたものです。
置いたときには、正しく見えました。実際、そのときは正しかったのだと思います。
問題は、置いたまま忘れていたことでした。
最初に置いた線は、たいてい、いちばん粗い線です。
粗いまま放っておくと、粗いなりに、毎晩きちんと仕事をします。
■ イノベーションの起点は「外部の視点」。ユーザーの素朴な声がシステムの盲点を突く

この3つのほかに、もう1つだけ、書いておきたいことがあります。
この記録に出てくる大きな発見は、半分ほどが、他人の一言から始まっています。
「書き込めさえすれば、送れるはずだよね」
「変な画面が一瞬出るんですけど」
「画面の字が、読めないんです」
「どうしても開けません」
どれも、専門の話ではありません。
むしろ、専門の外側から見た、素朴な感想のようなものばかりです。
こちらが何か月も見落としていたものを、その方たちは、一目で言い当てました。言い当てられたというより、こちらが見ていないところを、ふつうに見ていただけなのだと思います。
中を知っていると、見えなくなるものがあります。
だから、聞くしかありません。それだけです。
特別なことは、何もしていません。
この3つを、地味に繰り返してきただけです。
■ ポストモーテム(失敗の振り返り)の価値。自慢話よりも「間違えた話」に宿る普遍性
そして、この3つは、たぶん、このツールに限った話ではありません。
ここまで読んでくださった方には、思い当たるものが、1つや2つあったのではないでしょうか。
これからのことも、少しだけ。この記録は、まだ終わりません。
手元には、書ききれなかった話が、いくつも残っています。
- 必ず選ばなければいけない項目を、埋めきれなかった話。
- 数字の欄に、書ける範囲が決まっていた話。
- 画面の赤い文字を読んで、直して、送り直した話。
- 送信ボタンが、文字ではなく絵だった話。
- 10台の成績がばらついた理由が、機械ではなく名簿だった話。
どれも、たぶん、同じような話になります。
うまくいかなかった1件を開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まって、笑ってしまうような、小さな間違いが1つ見つかる。
それを直すと、少しだけ数字が動く。その繰り返しです。
300回を超えたところで、5社に1社まで来ました。
次の100回で、どこまで行けるかは分かりません。
分かっているのは、今夜もまた、10台が動き出すということだけです。
朝になれば、記録が残ります。
その中に、また1つ、笑ってしまうような間違いが見つかるはずです。
それを開いてみるところから、続きが始まります。

最後に、ここまで読んでくださった方へ。
この記録には、自慢できる話がほとんど出てきませんでした。
書いているうちに気づいたのですが、自慢できる話というのは、あまり役に立ちません。
うまくいった話からは、「うまくいったんだな」以上のことが出てこないからです。
間違えた話は、違います。
どこで、なぜ、どう間違えたか。
そこには、たいてい、誰にでも当てはまる形が入っています。
- 自分が置いた仮の数字を、忘れる。
- 試してもいないものを、無理だと決める。
- 困っていないところは、見ない。
どれも、このツールに限った話ではありません。
この記録が、少しでもそういう形として読めるものになっていれば、書いた甲斐があります。
今夜も、10台が動いています。
この開発記はここでいったん終わります。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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