
はじめに
「来月から、新規開拓を強化しよう!」
営業会議で社長が宣言する。
営業担当者も気合いが入る。
新しい営業リストを作り、電話をかけ、メールを送り、アポイントを取る。
最初の1週間は、なかなかいい感じです。
ところが2週間目。
既存のお客様から急ぎの依頼が入る。
商談が増える。
見積もりの作成が重なる。
クレーム対応も発生する。
そして気がつくと、新規開拓は後回し。
1か月後の営業会議では、
「今月は既存顧客の対応が忙しくて……」という報告が並びます。
社長は言います。
「新規開拓も大事なんだから、ちゃんとやろうよ!」
そして翌月、また営業強化月間が始まる。
……もはや毎月開催の恒例イベントです(笑)
もちろん、営業担当者が怠けているわけではありません。
目の前のお客様を大切にするのは当然ですし、既存顧客への対応は売上を守る重要な仕事です。
問題はそこではありません。
新規開拓が、忙しくなったら止めてもいい仕事になっていること。
今回は経営者の視点から、新規開拓が止まる会社と続く会社の違い、そして営業を「イベント」にしない仕組みについて考えてみましょう。

第1章:新規開拓が止まるのは、営業担当者の意識が低いからではない
新規開拓が続かない会社では、こんな会話が起こりがちです。
「もっと新規営業を頑張ってほしい」
「既存顧客ばかり回っていないで、新しい会社にもアプローチしてほしい」
「今月は新規のアポが少ないぞ」
経営者としては、当然の思いでしょう。
既存顧客だけに依存していては、将来の売上が不安になります。
取引先の事情で発注が減ることもあれば、競合に切り替えられることもあります。だからこそ、新しいお客様との接点を作り続ける必要があります。
ただし、ここで考えたいことがあります。
新規開拓を続けられる環境を、会社として用意しているでしょうか?
例えば、営業担当者の1日を見てみます。
午前中は既存顧客への連絡。
午後は商談。
夕方は見積もりと社内報告。
空いた時間に新規開拓をする。
これでは、新規開拓が後回しになるのも無理はありません。
なぜなら、
既存顧客の仕事には締め切りがあるのに、新規開拓には締め切りがないからです。
お客様からの見積もり依頼には、回答期限があります。
納期の確認にも、対応期限があります。
でも新規開拓は、「今日やらなくても、明日できる」と思えてしまう。
そして明日も忙しい。
来週も忙しい。
気がつけば1か月経っている。
これは個人のやる気だけで解決する問題ではありません。
新規開拓を、会社の業務としてどう位置づけるか。
そこに経営者の仕事があります。
第2章:「営業強化月間」が必要な会社の共通点

営業強化月間そのものが悪いわけではありません。
新商品を発売したとき。
新しい市場へ進出するとき。
特定の業種へ集中的にアプローチするとき。
期間を決めて営業活動を強化することには意味があります。
問題は、
普段の新規開拓が止まっているから、定期的に強化月間が必要になることです。
こうした会社には、いくつかの共通点があります。
1.新規開拓の担当が曖昧
「営業部全員で新規開拓を頑張ろう」という方針は、聞こえはいいものです。でも、誰が何をするのか決まっていなければ、結局は誰も責任を持てません。
- 営業先を探す人。
- リストを管理する人。
- 最初のアプローチをする人。
- 商談を担当する人。
- 結果を記録する人。
少人数の会社なら兼任でも構いません。
ただし、役割が決まっていることが重要です。
2.営業リストが毎回ゼロから始まる
「よし、新規開拓を始めよう!」となってから、営業先を探し始める。
- インターネットで会社を検索する。
- 電話番号を調べる。
- Excelに入力する。
- 重複を確認する。
ようやく営業できる頃には、かなり時間が経っています。
これでは、新規開拓を始めること自体が大仕事です。
営業リストは、強化月間のたびに作るものではありません。
日常的に蓄積し、更新しておく会社の資産です。
3.結果を振り返る仕組みがない
- 何件電話したか。
- 何件メールを送ったか。
- 何件アポが取れたか。
ここまでは報告していても、その先が残っていない会社があります。
- どの業種の反応が良かったのか。
- どんな課題を持つ会社が商談になったのか。
- なぜ失注したのか。
こうした情報が残っていなければ、次の営業に活かせません。
結果として、毎回同じような営業を繰り返すことになります。
つまり、新規開拓が続かない会社では、
活動そのものだけでなく、活動を支える仕組みが不足していることが多いのです。
第3章:新規開拓を「特別な仕事」から「毎日の仕事」に変える

では、どうすれば新規開拓を継続できるのでしょうか。
最初に取り組みたいのは、
新規開拓の時間を、あらかじめ確保することです。
例えば、
毎週月曜日と水曜日の午前中は新規開拓。
毎日午前中の30分は新規アプローチ。
金曜日の午後は営業リストの見直し。
このように、営業活動を予定に組み込みます。
もちろん、業種や会社規模によって適切な時間は違います。
重要なのは、
「時間が空いたらやる」から「最初から予定に入っている」へ変えること。
ここで経営者が注意したいのは、予定を作るだけで終わらせないことです。
例えば、新規開拓の時間を決めても、毎回その時間に社内会議を入れてしまったら意味がありません。
既存顧客からの急ぎの依頼が入ったとき、誰が対応するのかも考える必要があります。
営業担当者が新規開拓に集中できる時間を、会社として守る。
これが大切です。
また、新規開拓の作業を分けることも有効です。
- 営業先を探す。
- 企業情報を整理する。
- アプローチする。
- 商談する。
- 結果を記録する。
このすべてを営業担当者一人に任せているなら、負担は大きくなります。
営業リストの作成やデータ整理など、仕組み化・効率化できる部分は見直す。その分、営業担当者はお客様との接点づくりや商談に時間を使う。
営業活動を増やす前に、営業できる時間を作る。
これも経営者が考えるべき重要な仕事です。
第4章:見るべき数字は「今月の受注」だけではない

新規開拓を継続するうえで、数字の管理も欠かせません。
ただし、ここで気をつけたいことがあります。
受注数だけで営業活動を評価しないこと。
もちろん、最終的な成果として受注や売上は重要です。
でも、新規開拓は今日始めて明日受注できるとは限りません。
特にBtoBでは、最初の接点から契約まで数週間、数か月かかることもあります。そのため、今月の受注だけを見ていると、営業活動の状況が分かりにくくなります。
例えば、次のような数字を確認します。
・新規アプローチ数・・・新しい営業先に何件接触したか
・反応数・・・返信や会話など、何件の反応があったか
・アポイント数・・・何件の商談機会を作れたか
・商談数・・・実際に何件の商談を行ったか
・受注数・・・何件が契約につながったか
これらを並べることで、営業活動の流れが見えてきます。
例えば、
新規アプローチ数は多い。でも反応が少ない。
この場合は、営業先の選び方やアプローチ内容を見直す必要があるかもしれません。
反応はある。でも商談につながらない。
この場合は、提案の切り口やアポイントの取り方に課題があるかもしれません。
商談は増えている。でも受注しない。
この場合は、提案内容や価格、競合との違いなどを確認する必要があります。
つまり、
数字は営業担当者を追い込むためではなく、改善する場所を見つけるために使うもの。
経営者が毎月、
「今月は何件受注した?」と聞くだけでは、営業の仕組みは育ちません。
「どこで止まっている?」「何を変えれば次に進む?」という会話ができることが大切です。
第5章:社長が号令をかけなくても動く会社を作る

ここまでの話をまとめると、新規開拓を続けるために必要なのは、特別な営業テクニックではありません。
会社として、継続できる状態を作ることです。
例えば、次のような運用を考えてみます。
毎週やること
- 営業リストを確認する。
- 優先順位の高い企業へアプローチする。
- 反応を記録する。
- 翌週の営業先を決める。
毎月やること
- アプローチ数と商談数を確認する。
- 反応が良かった業種や企業の特徴を整理する。
- うまくいかなかった営業方法を見直す。
- 翌月の重点ターゲットを決める。
四半期ごとにやること
- 新規開拓から生まれた商談や売上を確認する。
- 狙っている市場が適切か見直す。
- 営業担当者の負担を確認する。
- 必要なら役割分担や営業方法を変更する。
こうした運用が決まっていれば、社長が毎月、
「新規開拓を頑張ろう!」と言わなくても、活動が続きやすくなります。
もちろん、最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。
営業担当者が2人の会社と、20人の会社では、必要な管理方法も違います。
最初は簡単なExcelでも構いません。毎週30分の振り返りでも構いません。
大切なのは、
続けられる小さな仕組みを作り、実際に回してみること。
そして経営者自身が、その仕組みを守ることです。
営業担当者に新規開拓を求めながら、毎日別の仕事を追加していては続きません。
- 新規開拓の時間を確保する。
- 必要な情報を用意する。
- 活動結果を確認する。
- 改善を支援する。
こうした環境づくりこそ、経営者が担うべき役割です。
まとめ
いかがでしたか?
新規開拓が止まる会社と、続く会社。
その違いは、営業担当者の能力や根性だけではありません。
新規開拓を、会社の日常業務として設計できているかどうか。
ここに大きな違いがあります。

新規開拓が止まる会社では、
売上が不安になる。⇒ 営業強化月間を始める。⇒ 一時的に活動が増える。⇒ 忙しくなって止まる。⇒ また売上が不安になる。
という繰り返しが起こります。
一方、継続できる会社では、
営業先を日常的に蓄積する。⇒ 新規開拓の時間を確保する。⇒ 活動結果を記録する。⇒ 数字を確認する。⇒ 改善する。
この流れが、特別なイベントではなく、普段の仕事になっています。
もちろん、毎日大量の新規営業をする必要はありません。
会社の規模や営業体制に合わせて、無理なく続けられる方法を考えればいいのです。
重要なのは、忙しい月でも活動が完全にゼロにならないこと。
そして、営業活動を続けるほど、会社に情報と経験が蓄積されていくことです。
新規開拓は、今月の売上を作るだけの仕事ではありません。
半年後、1年後の売上を作るための仕事でもあります。
だからこそ、経営者が考えるべきなのは、
「どうすれば営業担当者がもっと頑張るか?」だけではなく、
「どうすれば、頑張れないほど忙しい日でも新規開拓が続く会社になるか?」ということ。
営業強化月間がなくても、新しいお客様との接点が生まれ続ける。
そんな会社を作ることが、長く安定して売上を伸ばすための土台になるのだと思います。
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