これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

■ エラーログの解像度不足。システムが握りつぶしていた「例外処理」の理由

うまくいかなかった400件のうち、300件は、理由が残っていませんでした。
次に何を直すかを決めようとして、うまくいかなかった件を、理由ごとに数えてみました。これは、いつもやっていることです。
- フォームが見つからなかった件
- ボタンが押せなかった件
- 断りが書いてあった件
- 合図が読み取れなかった件
理由ごとに数えれば、いちばん多いところが分かります。
そこから直せばいい。
ところが、数え始めてすぐ、手が止まりました。
4分の3に、理由が書かれていませんでした。
書いてあるのは、1行だけです。
「送信できませんでした」
第1話のころと、同じでした。
あれから、ずいぶん改良を重ねてきたはずでした。
合図の読み方も、待ち方も、見分け方も、すべて作り直しました。それでも、うまくいかなかったときの記録だけは、最初のころから、ほとんど変わっていませんでした。
あっ、と思いました。
機械は、理由を知っていた。ただ、それを書き残していなかった。
これが、いちばん堪えました。
分からなかったのではありません。
その場では、はっきり分かっていたのです。
フォームが見つからなかったから諦めた。
ボタンが見つからなかったから諦めた。
分かったうえで、次へ進んで、「送信できませんでした」とだけ書いていました。知っていたことを、書かなかった。
■ 可観測性(オブザーバビリティ)の確保。未定義エラーをなくすトラッキングの実装

直すべきことは、はっきりしていました。
新しい機能は、何も作りません。速くもしません。
まず、測れるようにする。
諦めるところを、1つずつ辿りました。
どこで諦めているのか。そのとき、何が分かっているのか。
30か所ほどありました。
1つずつ、理由を書き残すようにしていきました。
「問い合わせページが見つかりませんでした」
「フォームらしい入力の集まりがありませんでした」
「必ず入力すべき欄を埋められませんでした」
「送信ボタンが見つかりませんでした」
「送信後の合図が読み取れませんでした」
「断りの記載があったため、見送りました」
「人に確認を求める仕組みがあったため、見送りました」
どれも、その場では分かっていたことです。
書き残す1行を足すだけの作業でした。
2日ほどかかりました。
新しいことは、何1つしていません。
現場への報告にも、書くことがありませんでした。
「今週は、記録を細かくしていました」それだけです。
ここで、笑ってしまう話がありました。
理由を書き残すようにしたあと、最初の晩の記録を開いてみました。
いちばん多かった理由が、これでした。
「理由が分かりませんでした」
30か所を潰したつもりで、まだ、どこにも当てはまらない道が残っていたのです。その道を辿って、また理由を足しました。こういう作業は、1度では終わりません。
2晩分の記録を見て、「理由が分かりませんでした」がなくなるまで、同じことを繰り返しました。
■ ログデータの正規化(フォーマット統一)。集計・分析を可能にするクレンジング

直したあと、あらためて数えてみました。
今度は、きれいに分かれました。そして、いちばん多かった理由は、こちらが予想していたものとは違いました。この話は、次の回に書きます。
この回で書いておきたいのは、順番のことです。
これまで、改良の順番は、なんとなくの見当で決めていました。
「たぶん、ここが多いだろう」
「この前、こういう例をいくつか見た」
その見当が当たっていたこともあります。外れていたことも、たぶんありました。外れていたかどうかも、分かりませんでした。
数えられなければ、確かめようがないからです。
次に直すべき場所を決められないのは、能力ではなく、記録の問題だった。これは、地味な話です。
この連載で書いてきた中でも、いちばん地味かもしれません。
届く数は、1社も増えていません。速くもなっていません。
それでも、この2日が、いちばん効いたと思っています。
このあとの改良は、全部、この記録の上で決めることになりました。
まず、測れるようにする。改良は、その次。
順番を逆にすると、直したかどうかも分からないまま、直した気になって進むことになります。そして、たいていの場合、その「直した気」は、当たっていません。
この回のことは、あとから何度も思い返しました。
300件に理由が無かったというのは、300回分の手がかりを、自分で捨てていたということです。機械は、毎晩きちんと働いていました。毎晩、300回ほど「なぜ駄目だったか」を知って、毎晩、それを捨てていました。
考えてみれば、もったいない話です。知っていることを書き残すのに、費用はかかりません。1行足すだけです。それをしていなかったのは、「あとで必要になるとは思わなかった」からでした。
直しているあいだは、いつも目の前の1件を見ています。目の前の1件については、その場で分かるので、書き残す必要を感じません。
必要になるのは、あとから全体を数えるときです。
そのときには、もう遅い。
この回のあと、決まりを1つ作りました。
その場で分かっていることは、必ず書き残す。
あとで要るかどうかは、そのときには分かりません。分からないから、残しておきます。
記録が増えすぎる心配は、たしかにあります。ただ、増えすぎた記録は、あとから減らせます。
残さなかった記録は、あとから増やせません。
どちらが取り返しがつくかで考えれば、答えは決まっていました。
もう1つ、この回のあとで変えたことがあります。
理由の書き方を、揃えました。
同じことを言うのに、書く場所によって言い方が違っていました。
「フォームなし」
「問い合わせフォームが見つかりません」
「入力欄の集まりが見当たりませんでした」
どれも同じことです。
人間が読む分には、困りません。数えるときには、困ります。
3つとも別のものとして数えられてしまうからです。
言い方を1つに決めて、全部の場所で、その言い方を使うようにしました。
これも、地味な作業でした。
30か所ほどを、1つずつ揃えていくだけです。
揃えたあと、はじめて、理由ごとの数が、まともに出るようになりました。
■ 改善サイクル(PDCA)の前提条件。「直す」より先に「定量化」を優先する

測れるようにするというのは、記録を残すことだけではありませんでした。
残した記録が、数えられる形になっていること。そこまでやって、ようやく測れます。
この2日の作業を、いま振り返ると、もっと早くやるべきでした。
できたはずです。難しくありません。
やらなかったのは、やっても何も良くならないように見えたからです。
直す作業には、手応えがあります。
昨日できなかったことが、今日できるようになる。
測れるようにする作業には、それがありません。
2日かけて、できることは1つも増えません。
その2日を出す気になったのは、次に何を直せばいいか分からなくなって、どうにもならなくなったからでした。
困り果てて、ようやく順番が正しくなった。
あまり格好のいい話ではありません。
格好の悪い話は、もう1つ続きます。
(つづく)
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