リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第25話「会社ごとに、書き出しを変える」

リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第25話「会社ごとに、書き出しを変える」 フォームリーチ開発日誌

これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。

派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。

あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。

書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。

けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。

『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

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「会社ごとに、書き出しを変える」|動的コンテンツのスコープ定義。「技術的に可能なこと」と「責任を持てること」の境界線

■ CRM連携による過度なパーソナライゼーションの罠。「知っているふり」が毀損する信頼

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同じ文章を1000社に送るのは、誰も読まない手紙を1000通書くのと、同じことです。

この言葉は、第4話にも出てきました。
あのときは、書き出しの一文を用意する機能を作って、その一文が、挨拶より先に置かれてしまっていた話でした。

位置は直しました。
ただ、中身のほうは、しばらく手つかずのままでした。

当時の書き出しは、こういうものでした。
「貴社サイトを拝見し、感銘を受けました」
どの会社にも、同じ一文です。

これは、書き出しを変えていることになりません。
むしろ、たちが悪いかもしれません。
その会社を見て書いたように読めて、実際には、何も見ていないからです。

現場からも、同じことを言われました。
「これ、逆効果じゃないかな。見てないのに、見たって書いてあるでしょう」

そのとおりでした。
では、どうするか。

相手の会社の情報を持っている帳簿と、このツールをつなぐことにしました。
名簿には、会社の名前と住所のほかにも、いくつかの情報が入っています。
業種。所在地。取り扱っているもの。その情報をもとに、書き出しの一文を組み立てます。

ここで、最初にやってしまったことがあります。
あれもこれも入れようとしたのです。

業種を入れて、地域を入れて、取り扱っているものも入れて──

できあがった一文は、こうなりました。
「東京都にて建設業を営まれ、住宅リフォームをお取り扱いの貴社のサイトを拝見し──」

読み返して、手が止まりました。
これは、相手のことを書いているのではない。
こちらが名簿を持っていることを、書いている。

■ 動的生成(変数挿入)のスコープ定義。システムが責任を持てる「確かな1行」への絞り込み

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受け取った側から見れば、気持ちのいいものではありません。
自分のことを知られている、という感じだけが残ります。
しかも、その情報は、名簿から機械的に拾ったものです。
本当にそのサイトを見て書いたわけではありません。

考え直しました。
変えていいのは、どこまでか。
答えは、はっきりしていました。

こちらが本当に見て書ける部分だけ。

名簿に業種が書いてあるからといって、その会社のことを知っているわけではありません。知らないことを、知っているように書けば、それは嘘に近づきます。
そこで、こう決めました。

変えるのは、書き出しの一文だけ。本文は、一字も変えない。
書き出しに入れるのは、その会社について、確かに言えることだけ。
業種が分かっているなら、業種に触れる。それ以上は、書かない。

一文の長さも、短くしました。
「建設業のお仕事をされている貴社に、ご案内できることがあるかと存じます」

これだけです。
派手さはありません。ただ、嘘は書いていません。

本文を変えないことにも、理由があります。
本文には、伝えたいことが書いてあります。その中身は、どの会社に対しても同じです。

会社ごとに変えれば、その分、目の届かないところが増えます。
1000通のうち1通が、変な日本語になっていても、こちらは気づけません。
変える範囲を狭くすれば、狭い範囲だけを見ればよくなります。

ここで、笑ってしまう話がありました。
書き出しを入れ替える仕組みを作ったあと、業種が空欄の会社に対して、こうなりました。

「のお仕事をされている貴社に──」

空欄が、そのまま空欄として出ていました。。。
試したのは、業種が入っている会社ばかりでした。
空欄の会社を、1件も試していませんでした。

空欄のときは、書き出しそのものを付けない。そう直しました。
付けないほうが、変な一文よりずっとましです。

■ ヒューマンインザループ(Human-in-the-loop)の実装。自動化プロセスに組み込む「最終承認」

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直したあとの反応は、悪くありませんでした。
返信の中身も、少し変わりました。
以前は、断りの返信がほとんどでした。

書き出しを変えてからは、「どういうことができるのか」と尋ねてくる返信が、少しずつ混じるようになりました。
数としては、わずかです。成績表を大きく動かすほどではありません。
それでも、この1行には意味がありました。
1行変えるだけで、手紙は手紙になる。

残りの全部が同じでも、最初の1行がその会社に向いていれば、読み始めてもらえる可能性が変わります。
そして、その1行に書くことがないなら、書かないほうがいい。
書けることがある会社にだけ、書く。
これは、届く数の話ではなく、受け取った方の時間の話でした。

もう1つ、この件で決めたことがあります。
書き出しの一文は、必ず、送る前に見られるようにしました。
1000社分の書き出しを、一覧にして出します。現場の方が、ざっと目を通して、おかしなものがあれば止められるようにしました。

1000行を全部読むわけではありません。ただ、同じ形の一文が1000行並んでいるので、変なものがあると、意外と目に留まります。
実際、この一覧で見つかったものがあります。
業種の欄に、業種ではなく、会社の説明文がまるごと入っている行がありました。そのまま送っていれば、書き出しが5行にわたる、たいへん奇妙な手紙になっていました。

名簿は、いつも整っているとはかぎりません。
整っていない名簿を、そのまま文章に流し込めば、整っていない手紙になります。

機械は、それを変だと思いません。言われたとおりに入れるだけです。
人が最後に1度見る。この一手間だけは、外さないことにしました。

■ ハルシネーションリスクの排除。「技術的にできること」より「責任を持てること」を優先する

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変えていいのは、こちらが本当に見て書ける部分だけ。

書き出しを会社ごとに変えるというのは、できることを増やす話ではなく、できないことをはっきりさせる話でした。

やろうと思えば、もっといろいろできます。
そのサイトを読んで、書いてあることを拾ってきて、それらしい一文を組み立てることも、できないことではありません。
実際、そういう話も出ました。

やめました。
拾ってきたものが正しいかどうかを、こちらでは確かめられないからです。
1000通のうち、990通が自然でも、10通が的外れなら、その10社には失礼です。しかも、こちらは、どの10通が的外れだったのかを知る手立てがありません。
確かめられないことは、やらない。この線を、この回で引きました。

届く数を増やすためにできることは、まだあります。
ただ、増やし方によっては、増やすほど信用を減らすことになります。
このツールが向かっている先は、「たくさん送れるツール」ではありません。送ってよい相手に、読んでもらえる形で届くツールです。遠回りに見えますが、結局、そのほうが数字も伸びました。

この件のことを、現場はこう言いました。
「1行だけ変えるって、地味だよね」

地味です。

「でも、それでいいと思うよ。こっちが本当に見て書けるのは、そのくらいだから」

その言葉で、決まりました。

できることの範囲を、できるかどうかで決めるのではなく、責任が持てるかどうかで決める。
このツールについての決めごとの中で、いちばん納得しているのが、これです。

メールの話は、もう少し続きます。

次は、用意した件名の置き場所が、なかった話です。

(つづく)


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