リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第18話「黒い画面が、勝手に出てくる」

リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第18話「黒い画面が、勝手に出てくる」 フォームリーチ開発日誌

これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。

派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。

あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。

書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。

けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。

『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

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バックグラウンド処理が奪うユーザーの安心感。「仕様です」で終わらせないUI/UX改善

あるお客様から、こう言われました。「使っていると、変な画面が一瞬出るんですけど、大丈夫ですか」

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黒い画面のことでした。
このツールは、裏でいくつかの小さな仕事をしています。

ページを開くための下ごしらえ。
置き場所の掃除。
新しい版が来ていないかの確認。

どれも、使っている方には関係のない仕事です。
その仕事を呼び出すたびに、黒い窓が一瞬だけ開いて、すぐ閉じていました。動作には、何の害もありません。仕事はきちんと終わっていますし、開いた窓も、すぐに消えます。

「害はありません」
最初は、そう答えようとしました。
実際、そう答えかけました。
言いかけて、やめました。

その方は、「壊れていますか」と聞いたのではありません。
「大丈夫ですか」と聞いています。

不安だ、ということです。

あっ、と思いました。
害が無いことと、気にならないことは、違う。
こちらは、その黒い窓が何をしているか知っています。
だから、気になりません。

知らない人から見れば、落ち着いて作業をしているところに、突然、真っ黒な窓が現れて、すぐ消えるわけです。
何かよくないことが起きたのかと思うのが、当たり前です。

■ バックグラウンド処理のノイズ。技術的な「無害」とユーザー体験(CX)のズレ

調べものは、地味でした。
黒い窓が出る場所を、1つずつ探しました。

裏方の仕事を呼び出しているところが、思っていたより多くありました。
10か所以上ありました。

そのうち、いくつかは、ずいぶん前に入れて、そのまま忘れられていたものでした。中には、もう何もしていない呼び出しもありました。
昔は意味があったのでしょう。いまは、呼ばれて、何もせずに終わっています。何もしていないのに、窓だけは、律儀に開いていました。

こういうものは、探さないと見つかりません。
困りごととして誰かが言い出すまで、毎日、静かに開いては閉じているだけです。1つずつ、窓を出さないように直していきました。
仕事の中身は、何も変えていません。呼び出し方だけを変えました。

ここで、笑ってしまう話がありました。

全部直したつもりで、お客様の環境で試してもらったところ、まだ1か所だけ、出ていました。
その1か所は、「黒い窓が出ないように直す」ための処理そのものでした。

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直すための処理を呼び出すときに、黒い窓が開いていたのです。
自分の足元だけ、最後まで見えていませんでした。
直したあと、あらためて確かめてもらいました。

「出なくなりました。ありがとうございます」
それだけのやりとりです。

成績表は、一ミリも動いていません。
届く数も、こなせる数も、まったく同じです。
機能が増えたわけでもありません。
それでも、この直しには意味がありました。

このツールを毎日使っている方にとって、黒い窓は、毎日目に入るものです。
毎日、一瞬だけ不安になる。それが何10日も続きます。

こちらの記録には、そういうものは残りません。
成績表に載るのは、届いた数と、こなせた数だけです。
使っていて落ち着かない、という感覚は、どこにも数字として現れません。

■ プロセスのブラックボックス化が招く不安。システム進捗(ステータス)の可視化

この件のあと、1つ決めたことがあります。
使っている方から見て、何が見えているかを、ときどき自分でも見る。

開発している側は、いつも中身を知っています。
知っているから、気になりません。
知らない人の目で自分の道具を見るのは、思っているより難しいことでした。

いちばん確実なのは、聞くことです。
「使っていて、気になるところはありませんか」
この一言を、たまに聞くようにしました。
返ってくるのは、たいてい、小さなことです。

  • 黒い画面が出る。
  • 押しても反応がないように見える。
  • どこを押せばいいか分からない。

どれも、成績表には出てきません。けれど、毎日使う方にとっては、届く数が少し増えることより、こちらのほうがずっと大きいこともあります。

ぜんぶ、見えないところで済ませる。ツールというのは、たぶん、そういうものです。
うまくできているツールほど、中で何をしているかが見えません。
見えなくていいものを見せないことも、立派な仕事のうちでした。

もっとも、何でも隠せばいいわけでもありません。
この直しをしたあと、しばらくして、別の方からこう言われました。
「動いているのかどうか、分からないんですけど」

黒い窓を消したことで、裏で何かが進んでいる気配まで、消えていたのです。
以前は、窓が開くたびに、「ああ、何かやっているな」と分かりました。
不安ではありましたが、手がかりでもありました。
そこで、進み具合を静かに示すものを、画面の隅に置きました。

いま何社目か。
あと何社残っているか。

それだけです。
黒い窓のように、突然出てきて消えるものではありません。
ずっとそこにあって、静かに数字が動いていきます。

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「これで安心しました」
そう言ってもらえました。

隠すことと、伝えることは、逆の話に見えます。
実際には、どちらも同じことでした。
使う人が知りたいことだけを、見えるようにする。
中で何をしているかは、知らなくていい。
どこまで進んだかは、知りたい。

その線を引くのは、こちらの都合ではありません。
使っている方に聞くのが、いちばん早い方法でした。

■ 「仕様です」という回答がフィードバックループを止める。顧客の声を拾うサポート対応

この回は、書くことが少ない回です。

技術の話は、ほとんどありません。窓を出さないようにしただけです。
それでも、書いておきたかったのは、最初に「害はありません」と答えかけた自分のことです。
あれは、正しい答えでした。
正しい答えでしたが、聞かれたことへの答えにはなっていませんでした。
その方が知りたかったのは、「壊れているかどうか」ではなく、「気にしなくていいのかどうか」でした。

こういう食い違いは、たぶん、よく起こります。
技術の側は、事実を答えようとします。
使う側は、安心を求めています。
事実を答えるだけでは、安心にはなりません。
「害はありません。ただ、出ないようにします」
このときは、最後にそう答えました。

出ないようにする、と言えたのは、言いかけてやめた、あの数秒のおかげでした。言いかけたことを、そのまま言ってしまっていたら、あの黒い窓は、いまも出続けていたと思います。

この件のあと、こういう連絡の受け取り方も変えました。
「これは仕様です」
「動作に問題はありません」
この2つの答えを、使わないことにしました。

どちらも、正しい答えです。
正しいのですが、この2つを言ってしまうと、そこで話が終わります。
終わってしまえば、次の連絡は来ません。
いま気になっていることを言っていただけるうちが、いちばん直しやすいときです。言われなくなったら、直す機会そのものが無くなります。
だから、まず「どう見えていますか」と聞く。答えを出すのは、そのあとで間に合います。

この件の直しに使った時間は、1日ほどです。
窓を出さないようにしただけの1日でした。
その1日で、毎日一瞬だけ起きていた不安が、消えました。

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こういう釣り合いの取れた仕事は、そう多くありません。
ただ、あの裏方仕事の1つは、この少しあとで、思わぬ形で表に出てきます。

(つづく)


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