リストル:企業データベース開発日誌 第20話「同じ会社を、同じ会社と見抜く」〜「機械に決めさせない」という設計。誤検知のリカバリコストを最小化する名寄せとデータ統合の仕組み〜

リストル:企業データベース開発日誌 第20話「同じ会社を、同じ会社と見抜く」〜「機械に決めさせない」という設計。誤検知のリカバリコストを最小化する名寄せとデータ統合の仕組み〜 企業DB開発日誌

💡Listoru(リストル)は、Web上の情報から企業の営業リストを自動で収集・作成するツールです。
この「企業DB開発日誌」では、数ある機能の裏側に隠された、私たちの試行錯誤を綴っていきます。
エラー画面には出ない問題や、データとの静かな対話から見えてきたもの。
正解のない開発現場のリアルな空気を、少しだけおすそ分けさせてください。
今日もリストルの裏側で起きた、ひとつの物語をお届けします。

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フォーマットの非互換が引き起こすデータ重複。企業データにおけるクレンジングと名寄せの必要性

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企業データの厄介なところは、同じ会社が、違う顔で何度もやってくることです。

  • 展示会でいただいた名刺。
  • 以前使っていた道具から書き出したファイル。
  • 自分たちで集めた一覧。

どれにも、同じ会社が入っています。
そして、書き方が揃っていません。

株式会社が前に付く。後ろに付く。
㈱と書かれている。(株)と書かれている。
住所にビル名まで入っている。番地で終わっている。
本社の住所と、営業所の住所が混ざっている。

人が見れば、同じ会社だと分かります。
分かるのですが、1万件を人が見るわけにはいきません。
重複したまま放っておくと、どうなるか。

同じ会社に、別の担当者が同時に連絡します。
片方の記録には商談が進んでいると書いてあり、もう片方には、初回接触と書いてある。
相手から見れば、同じ会社から2回来たことになります。

こちらのデータの乱れは、こちらの画面の中に、収まっていてくれません。
データの整理の話に見えて、実際には、外から見える問題でした。

この判定を、名寄せと呼びます。
まず、比べられる形に整えます。
株式会社や有限会社といった部分を取り除く。
全角と半角を揃える。記号を落とす。空白を詰める。
住所も同じように整えます。
都道府県の表記を揃え、番地の書き方を統一する。
こうして、比べるための文字列を作ります。

この整え方には、加減があります。
削りすぎると、別の会社が同じに見えます。
地名だけの違いを消してしまうと、支店と本店が一致します。
削らなすぎると、同じ会社が別に見えます。
括弧の種類が違うだけで、別会社になります。

どこまで削るかは、試して決めるしかありませんでした。
実際のデータで試して、一致しすぎたら戻し、一致しなさすぎたら進める。
境目は、理屈からは出てきません。データからしか、出てきませんでした。
正解を先に決められない種類の作業です。

計算量爆発を防ぐ2段階判定と、上書き(データロスト)を防ぐ更新ルール

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次に、比べます。

会社名がどれくらい似ているか。
住所がどれくらい似ているか。
電話番号が一致しているか。

一致するものが多いほど、同じ会社である可能性が高くなります。
比べる相手を、全件にすることはできません。1件につき数十万件と比べていたら、終わりません。だから、先に候補を絞ります。

  • 名前の一部が共通しているもの。
  • 同じ地域にあるもの。
  • 電話番号の一部が一致するもの。

粗く絞ってから、丁寧に比べる。
この2段構えにしないと、規模が大きくなった時点で動かなくなります。
第7話で書いた話と、同じ理屈です。

ここで、点数を出します。
そして、判定は3つに分かれます。

ひとつめ。【新規】
似ている会社が見つからなかったもの。
新しい会社として、そのまま登録します。

ふたつめ。【更新】
十分に確かな一致があったもの。
既存の会社と同じだと判断し、情報を足します。
住所が空だったところに住所が入る。電話番号が古かったところが、新しくなる。

更新のときにも、決めごとが要りました。
既存の情報と、新しい情報が違う場合、どちらを残すのか。

空欄には、入れます。値が入っているところは、上書きしません。
新しいほうが正しいとは限らないからです。

古い住所が入っているのか、支店の住所が入っているのか、こちらには分かりません。分からないときは、消さない。

誤検知(フォルス・ポジティブ)のリスク。統合の「後片付け」を回避するフェイルセーフ設計

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みっつめ。【保留】
似ているけれど、決めきれないもの。

似ているけれど、決めきれない。
たとえば、社名は一致しているが、住所が違う。
支店かもしれないし、移転したのかもしれない。

たとえば、住所も電話番号も一致しているが、社名が大きく違う。
同じ建物に入っている別会社かもしれません。

この3つ目を作るかどうかで、ずいぶん迷いました。
作らないほうが、簡単です。

点数に境目を1つ引いて、それより上なら同じ会社、下なら別の会社。
そう決めれば、処理は最後まで自動で終わります。
人の手を煩わせません。画面も要りません。

実際、そうしているツールはあります。

3つ目を作るなら、箱と、一覧と、人が判断するための画面が要ります。
決めない、のほうが、作るものは多いのです。

けれど、間違えたときの後片付けが、まるで違います。
別の会社を、別の会社のまま置いておいた場合。
あとで気づけば、統合すればいい。

別の会社を、同じ会社として統合してしまった場合。
元に戻すのは、簡単ではありません。

2社分の活動記録が、1つに混ざります。
担当者も、商談も、メモも混ざります。
しかも、混ざったことに、しばらく気づきません。

分かれているものは、目に見えます。
混ざってしまったものは、混ざったようには見えません。
1社の、少し記録の多い会社に見えるだけです。

危ないのは、いつも片方だけです。

判定を作るとき、私たちは「どちらの間違いも同じくらい避けたい」と考えがちです。

実際には、そうではありません。
間違えたときの後片付けが軽いほうへ、倒す。
今回でいえば、統合しない側です。
別々のまま残っていても、あとで気づけば直せます。

この考え方は、他の場所でも使いました。
第15話の「たぶん届いた」も同じです。
どちらに寄せるかではなく、間違えたときにどちらが痛いかで決めています。

自動化の度合いは精度ではなく「人の負担」で測る。機械に「決めない」を教えるUI設計

だから、保留を作りました。
機械が決めない、という選択肢です。

保留になったものは、一覧に並びます。
人が見て、統合するか、別会社として登録するかを決めます。

決めた結果は、次に活きます。
どういう組み合わせを人が「同じ」と判断したのか。その傾向は、判定の見直しに使えます。
ただし、保留を増やしすぎると、人の仕事が増えます。

境目の置き方は、いまも調整を続けています。
多すぎれば人が疲れ、少なすぎれば事故が増える。
この調整に、正解はありません。数字を見ながら、少しずつ動かすものです。

見ている数字は、2つです。

保留になった件数。そして、統合したあとに取り消された件数。
取り消しが増えたら、機械が決めすぎています。
保留が増えすぎたら、機械が決めなさすぎています。
どちらも、人の作業量として跳ね返ります。
自動化の度合いは、精度ではなく、人の負担で測るようにしました。

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保留の画面も、作り方に気をつけました。
人が判断するには、材料が要ります。
どちらの会社が、どういう情報を持っているのか。
何が一致していて、何が違うのか。

それを並べて見せます。

そして、判断は2択にしました。統合するか、別会社として残すか。
選択肢を増やすと、迷う時間が増えます。
1件あたり数秒で判断できないと、数千件の保留は、永久に片付きません。

保留は、人に仕事を渡す仕組みです。渡すなら、受け取れる形で渡す。
決めやすさは、そのまま処理量になります。

名寄せは、地味な機能です。
お客様に説明しても、あまり盛り上がりません。画面も、そっけない。
けれど、これが効いていないと、その上に載る機能が、全部おかしくなります。

活動の記録が分散する。
同じ会社に二度連絡する。
集計の件数が合わない。

土台の仕事です。

作ってみて、いちばん大事だったのは、判定の精度ではありませんでした。
「決めない」という状態を、きちんと持てるようにしたことでした。

機械は、必ず何かを返します。返さないことができません。
迷う、ということができません。迷いに見えるものも、決められた計算の結果です。

だから、返さないための箱は、こちらが用意しておくしかないのです。
機械が決めないことを決めるのも、設計のうちです。

3つ目の箱には、いまも毎日、少しずつ何かが入ります。

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次回予告

第21話「13桁の正解」

会社名で照合する。電話番号で照合する。
どちらにも、限界があります。

国が、1社に1つだけ番号を振っていました。
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リストルは、今日もどこかを直しています。


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