リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第11話「.co.jp と .com は、他人か」

リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第11話「.co.jp と .com は、他人か」 フォームリーチ開発日誌

これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。

派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。

あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。

書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。

けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。

『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

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別ドメインへの遷移をどう判定するか。500件の機会損失を生んだ安全機能の罠

500社以上が、まとめて捨てられていました。

記録には、こう書いてありました。
「別の会社のサイトへ飛ばされたため、中止しました」
この決まりは、こちらが自分で入れたものです。

問い合わせページを開いたつもりが、まったく関係のない別の会社のページに飛ばされていた。
そういうことは、実際にあります。
その状態で、こちらの用件を書き込んで送ってしまえば、まったく無関係の会社に、突然の営業文が届くことになります。
それだけは、絶対に避けなければいけません。

だから、こう決めました。
途中で別の会社のサイトへ移ったら、その場で中止する。
安全側に倒した決まりです。
いまでも、考え方としては正しかったと思っています。

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■ URLの末尾が違うだけで「別の会社」だと見なす機械

問題は、その決まりが働いた回数でした。

500社以上。

これは、多すぎます。

本当に別の会社へ飛ばされる例が、こんなにたくさんあるとは思えませんでした。
そこで、中止した会社を1社ずつ開いてみました。

1社目。
会社のトップページを開き、「お問い合わせ」の文字をたどっていくと、たしかに、アドレスの綴りが変わりました。

変わったあとのページを、上から下まで読みました。
同じ会社でした。
同じ社名。同じ商品。同じ問い合わせ先の電話番号。
画面の見た目も、まったく同じです。
変わっていたのは、アドレスの末尾の数文字だけでした。

2社目も、同じでした。
3社目も、同じでした。
10社ほど開いて、10社ともそうでした。

念のため、開きながら、社名を声に出して確かめました。
移る前のページの社名。
移ったあとのページの社名。

同じです。
電話番号も同じです。
画面のいちばん下に並んでいる案内も、同じ顔ぶれでした。
どこからどう見ても、同じ会社の、別の入り口でした。

途中で、少しおかしくなってきました。
こちらの機械は、この10社すべてについて、「別の会社のサイトへ飛ばされたため、中止しました」と、きまじめに記録していたわけです。

目の前に同じ看板が2枚あるのに、アドレスの末尾が違うというだけで、律儀に引き返していたことになります。

あっ、と思いました。

多くの会社は、2つのアドレスを持っている。
日本の会社は、会社を表すアドレスと、もっと広く使われている短いアドレスと、両方を持っていることが珍しくありません。
案内のページはこちら、問い合わせのページはあちら、という具合に、役割で使い分けている会社もあります。

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人間なら、迷いません。
画面の見た目が同じで、社名も同じなら、「ああ、同じ会社の別の入り口だな」と思うだけです。
アドレスの末尾など、たいてい見ていません。

こちらの機械は、そこしか見ていませんでした。
末尾が違えば、他人。
それだけの決まりでした。

■ アドレスではなく「中身」で同一性を確かめる

ここからの調べものは、少し慎重にやりました。
この決まりを緩めるということは、「別の会社へ送ってしまう危険」を、その分引き受けるということです。
緩めすぎれば、いちばんやってはいけないことが起きます。
そこで、まず、捨てられた500社あまりを3つに分けてみました。

1つ目は、アドレスの末尾だけが違って、前の部分がまったく同じもの。
これがいちばん多く、半分以上を占めていました。

2つ目は、末尾も前の部分も違うけれど、社名が同じで、画面の見た目も同じもの。会社の名前でページを作り直した例です。
これも、かなりありました。

3つ目が、本当に、まったく別の会社のページ。
数えてみると、ごくわずかでした。
この3つ目のためだけに、残りの全部を捨てていたことになります。

直し方は、こうしました。
まず、アドレスの末尾だけを見るのをやめました。
前の部分が同じで、末尾だけが違う場合は、同じ会社の別の入り口として扱います。

次に、それでも判断がつかない場合は、移った先のページを読んで確かめます。
もとのページにあった社名が、移った先にもあるか。
電話番号は同じか。
画面のいちばん下に並んでいる案内は、同じ顔ぶれか。
3つのうち2つが合っていれば、同じ会社と見なす。
合っていなければ、これまでどおり、その場で中止する。

中止したときには、理由も残すようにしました。
「移った先が、別の会社に見えたため中止しました」
あとから数えられるようにしておけば、この判断が厳しすぎるのか緩すぎるのかを、いつでも確かめられます。

■ 1文字のミスで「安全そのもの」を外しかけた恐怖

ここで、笑ってしまう話が1つあります。

この直しを入れて、最初に走らせたとき、中止の数が、ほとんどゼロになりました。
やった、と思いました。
ところが記録をよく見ると、「同じ会社と見なした」の数が、異様に増えています。

調べてみると、比べる部分の取り方を1文字分間違えていて、ほとんど何でも「同じ会社」になっていました。
安全のための決まりを直していたはずが、安全そのものを、うっかり外しかけていたわけです。
幸い、走らせたのは試し用の名簿だけでした。
本番に出す前に気づけたのは、運がよかったと思います。

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この一件のあと、こういう「安全のための決まり」を直すときは、必ず、わざと引っかかるはずの例を先に用意して、ちゃんと止まることを確かめてから入れるようにしました。

直したあとの結果は、はっきりしていました。
捨てられていた500社あまりのうち、9割近くが、ふつうに訪問できるようになりました。
そして、本当に別の会社だったわずかな分は、これまでどおり、きちんと中止されました。

慎重さは、正しい。
ただ、慎重さにも見分けが要る。

何も送らなければ、間違いは起きません。
けれど、それでは道具になりません。

止めるべきものを止めて、通すべきものを通す。
その線を引き直すのが、いちばん時間のかかる仕事でした。

■ 働いていることが目に見えない「守りの仕組み」を数える

線は、1度引いたら終わりではありません。
引いたあと、どちらの側に何が落ちたのかを、ときどき数えてみる必要があります。
500社は、数えてみるまで、誰にも見えていませんでした。

この件のあと、もう1つ決めたことがあります。
「安全のために止めた」という記録は、全部、別の場所にまとめて残すようにしました。

止めたこと自体は、正しい振る舞いです。
だから、失敗として数えるのは違います。
かといって、成功でもありません。

これまでは、行き場のない記録として、失敗の山の中に紛れていました。
紛れていたから、500社が見えなかったのです。
止めた記録を別に集めておけば、月に1度、そこを眺めるだけで済みます。
眺めてみて、多すぎると感じたら、線の引き方を疑う。
少なすぎると感じたら、緩すぎないかを疑う。

安全のための決まりというのは、入れたあと、誰も見ないまま何か月も置かれがちです。
働いていることが、目に見えないからです。
働いている数を目に見えるようにしておけば、少なくとも、忘れることはありません。

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この回の直しは、届く数を大きく動かしました。
それでも、いちばん覚えているのは、1文字分間違えて、安全そのものを外しかけたことです。
あのとき本番に出していたら、まったく無関係の会社に営業文が届いていました。取り返しのつかない種類の間違いです。

試し用の名簿でしか走らせていなかったのは、偶然ではなく、そういう手順にしていたからでした。
手順に助けられた、というのが正直なところです。

送ってはいけない相手に、送らない。

次の回も、その話です。

(つづく)


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