これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊
目次
- システムエラーが顧客の信頼を削る。届く数を増やすより大切な「送らない」決断
- ■ 届く数を増やすことの向こう側にいる、受け取る人の手間
- ■ 10台のパソコンは、互いの仕事をまったく知らなかった
- ■ 手間をかけてでも守るべき「共有台帳」のルール
- ■ 「迷ったときは、送らない」という道具としての本質

システムエラーが顧客の信頼を削る。届く数を増やすより大切な「送らない」決断
1つの会社に、同じ文面が4通、届いていました。
分かったきっかけは、先方からの返信でした。
たいへん丁寧な文面で、こう書かれていました。
「同じご案内を4通いただいております。
お手数ですが、ご確認いただけますでしょうか」
叱られてはいませんでした。
むしろ、こちらを気遣うような書き方でした。
だからこそ、こたえました。
その返信を読んだのは、朝でした。
しばらく、他の作業が手につきませんでした。
まず謝りました。

現場にも、その日のうちに伝えました。
「それは、こっちから謝っておくよ」
そう言ってもらえたのが、かえって応えました。
そのうえで、記録を開きました。
このときの調べものは、これまででいちばん、気の重いものでした。
届く数を増やす話なら、うまくいかなくても「まだ届いていない」だけです。
誰にも迷惑はかかりません。
2度送るというのは、そうではありません。
こちらが余計なことをした、というだけの話です。
増やそうとしていたものが、そのまま、相手の手間に変わっていました。
■ 届く数を増やすことの向こう側にいる、受け取る人の手間
このツールは、送るための道具です。
送る数を増やすことばかり考えていると、増えた数の向こうに、1社ずつ、受け取っている人がいることを忘れます。
4通というのは、こちらの記録の上では、ただの4行です。
受け取った側では、4回、同じ封筒を開けたということでした。
記録は、思ったより丁寧に残っていました。
どの台が、何時何分に、どの会社を訪ねたか。
そこまでは、きちんと書いてありました。
書いていなかったのは、「送れたかどうか」だけでした。
記録をたどっていくと、4通の送信は、同じ日の、少しずつ違う時刻に並んでいました。
1通目。
記録には「結果を確かめられませんでした」とありました。
2通目。
同じ記録。
3通目、4通目も、同じでした。
つまり、こういうことでした。
送信そのものは、4回とも成功していた。
ただ、こちらがそれを確認できていなかった。
確認できなかったので、「まだ届いていない」と判断しました。
判断したので、親切に送り直しました。
4回、繰り返しました。
相手にとっては、ただの迷惑です。

このとき分かっていたのは、「送れたかどうかを、こちらが読み取れていない」ということだけでした。
読み取り方が悪いのか、そもそも読み取るべき合図が出ていないのか。
そこまでは、まだ分かりません。
その話は、もう少しあとの回になります。
この回で先に片付けるべきなのは、別のことでした。
確かめられないことは、これからも起こります。
起こったときに、4通送ってしまう作りのほうが問題です。
■ 10台のパソコンは、互いの仕事をまったく知らなかった
もう1つ、悪いほうに効いていたことがありました。
「同じ会社に2度送らない」という決まりは、実は、最初から入れてありました。
ここが、いちばん間の抜けたところです。
その決まりは、1台の中でだけ有効だったのです。
10台のパソコンは、それぞれ自分の手元に「もう送った会社」の控えを持っていました。
自分の控えは、きちんと見ていました。
几帳面に見ていました。
ただ、10台は、互いの控えをまったく知りませんでした。

1台目が送った会社を、3台目が「まだ送っていない会社」として、堂々と訪ねていました。
10台で手分けするようにした日から、この行き違いは、ずっとそこにありました。
速くなったことばかり見ていて、手分けした結果、控えも10に分かれたことを、誰も数えていませんでした。
あっ、と思いました。
増やすほうばかり見ていて、増やしてはいけないもののことを、忘れていた。
■ 手間をかけてでも守るべき「共有台帳」のルール
直したのは、3つです。
1つ目は、台帳をつくること。
10台がそれぞれ控えを持つのをやめて、一冊の台帳を、全台で共有するようにしました。
訪ねる前に、必ず台帳を見る。
名前があれば、その会社には行かない。
台帳を誰に持たせるかは、少し迷いました。
10台のうちの1台に持たせると、その台が休んだ日に困ります。
全員で少しずつ持つと、話が複雑になります。
結局、10台のどれでもない場所に、一冊だけ置きました。

訪ねる前に、そこを見にいく。
見にいく手間は増えますが、話は単純になりました。
2つ目は、台帳に書き込む順番です。
最初は、送り終えてから書き込む作りにしていました。
これが、よくありませんでした。
送っている最中は、台帳にまだ何も書かれていません。
その最中に、別の台が同じ会社を引き当てると、台帳を見ても、名前がないのです。
そろって「まだ送っていない会社だ」と判断して、2台で同じ会社を訪ねることになります。
そこで、順番を入れ替えました。
訪ねる前に、先に台帳へ名前を書く。送れても、送れなくても、名前は残す。
3つ目は、台帳に書く中身です。
訪ねたかどうか。
送れたかどうか。
最初は、1つで足りると思っていましたが、足りませんでした。
訪ねたけれど送れなかった会社と、まだ訪ねていない会社は、まったく別のものです。
1つの欄にまとめてしまうと、あとから、どちらだったのかが分かりません。
この直しのせいで、「もう1度試したい会社」を選び直す手間は増えました。実際、しばらくのあいだ、この手間には文句を言いたくなりました。
訪ねただけの会社と、送り終えた会社が、台帳の上では、どちらも名前が載っています。もう1度試したいときは、その2つを分けてから選び直さなければいけません。
以前なら、名前が載っていなければ試す、で済みました。
便利さで言えば、明らかに前のほうが上です。
それでも、こちらを選びました。
届かない1社は、あとで取り返せます。
2度届いた1社は、取り返せません。
■ 「迷ったときは、送らない」という道具としての本質
この1件のあと、新しい決まりを1つ足しました。
迷ったときは、送らない。

届く数は、その分減ります。
それでも、こちらの都合で2度届くよりは、ずっとましです。
しばらく考えていたことがあります。
機能を1つ増やすのは、難しくありません。
時間さえかければ、たいてい何とかなります。
難しいのは、間違って2度やらないことのほうでした。
増やす仕事と、増やさない仕事。
成績表に載るのは前者だけですが、受け取る側から見れば、後者のほうがずっと大事です。
届いた数が1つ増えることより、同じ文面が2度届かないことのほうが、たぶん、ずっと意味があります。
この一件のあと、送った記録をお客様の画面からも見られるようにしました。
いつ、どの会社へ、どの文面を送ったか。
これまでは、こちらの手元にしかありませんでした。
手元にしか無ければ、お客様は、2度送ったかどうかを確かめられません。
確かめられなければ、同じことが起きても、気づけません。
記録は、こちらのためだけのものではありませんでした。
「これ、便利ですね。前に送ったところが分かるようになりました」
そう言っていただけました。
もともとは、こちらの落ち度から始まった直しです。
落ち度から始まった直しが、いちばん喜ばれることも、ときどきあります。
4通を受け取った方には、あらためてお詫びを申し上げます。
(つづく)
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