リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第9話「「送 信」の、あいだの空白」

リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第9話「「送 信」の、あいだの空白」 フォームリーチ開発日誌

これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。

派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。

あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。

書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。

けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。

『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

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全角スペースが自動化を止める。システムが直面した「人間向けデザイン」の壁

押せるはずのボタンが、見つかりませんでした。

記録には、こうありました。

「入力しました。送信ボタンが見つかりませんでした」

最初は、数社の話だと思っていました。
同じ記録を数えてみると、50社ほどありました。
全体から見れば、多い数ではありません。
ただ、記録の中身がどれも同じというのが、気になりました。
ばらばらの理由で失敗しているなら、記録もばらばらになるはずです。

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■ 目の前にある大きなボタンが、機械には見えていない

そこで、まず1社、自分で開いてみました。
ボタンは、目の前にありました。
画面のいちばん下、中央。
落ち着いた色の、四角い、大きなボタンです。

誰が見ても、送信ボタンです。
これ以外の何にも見えません。
指で押してみました。
ふつうに送れました。

これが、いちばん困る種類の話です。
自分で見えていて、自分で押せるものが、機械には見えていない。
こういうときは、機械に喋らせるしかありません。

押すべきボタンを探しているとき、機械がいったい何を見て、何と比べているのか。
その途中経過を、全部書き出させることにしました。
この書き出しの仕組みを作るのに、半日ほどかかりました。

■ 機械に喋らせてわかった「全角スペース」という罠

ふだんは、こんなに細かい記録は残しません。
残すと、記録そのものが山のようになって、肝心のことが見えなくなるからです。

困ったときだけ、1時的に全部書き出させる。
この使い分けは、このあとも何度も助けになりました。

出てきたのは、こんな一覧でした。

「ボタンらしきものを見つけました。文字は『検索』」
「ボタンらしきものを見つけました。文字は『閉じる』」
「ボタンらしきものを見つけました。文字は『送 信』」
「一致するものがありませんでした」

3行目のところで、手が止まりました。

「送 信」。

あいだに、空白が1つ入っていました。
全角の空白です。
2文字の言葉を、4文字分の幅に広げるための、あれです。

「氏 名」「住 所」「送 信」。

日本のページでは、ごく普通に見かける書き方です。
字面を整えるための、デザイン上の作法です。

人間の目には、ただ少しゆったりして見えるだけです。
読むときには、誰も空白を読んでいません。

あっ、と思いました。

機械にとっては、「送信」と「送 信」は、別の言葉だった。

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■ 「ぴったり一致」の罠。『送信する』も『Send』も見送っていた

こちらが探していたのは、「送信」という2文字でした。
ぴったり一致するものだけを、ボタンだと認めていました。

3文字目に空白が挟まっているだけで、「これは違うものだ」と、律儀に判断していたのです。

ここまで分かったところで、念のため、これまでに見かけたボタンの文字を集めてみました。

これが、なかなか壮観でした。

「送信」「送 信」「送 信」「送信する」
「送信内容を確認する」「確認画面へ」「この内容で送信」
「上記の内容で送信する」「お問い合わせを送信」
「送信 →」「Send」「submit」

こちらが探していたのは、この中の1つだけでした。

笑ってしまったのは、一覧の中に「送信する」があったことです。
「送信」を探しているのだから、「送信する」の中にも「送信」は入っています。
人間なら、当然そう考えます。

ところが、こちらの決まりは「ぴったり同じであること」だったので、「送信する」も、律儀に見送っていました。

2文字多いだけで、他人でした。

ついでに言うと、「送信」だけを探していたせいで、「確認画面へ」と書かれたボタンも、ずっと見送っていました。
二段構えのフォームは、いくらでもあります。
その入り口を、まるごと素通りしていたことになります。

一覧の下のほうにある「Send」や「submit」も、最初は見送っていました。
日本語のページなのだから、日本語のボタンだろう。
そう思い込んでいました。
実際には、見た目は日本語のページでも、ボタンの中身だけが英語のままということが、ときどきあります。

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■ 文字だけでなく「場所」と「役割」でボタンを見分ける

直し方は、そう難しくありませんでした。

まず、比べる前に空白を落とす。
「送 信」も「送 信」も、比べるときには「送信」にする。
次に、ぴったり一致ではなく、その言葉が含まれていれば認めるようにする。
そして、文字だけに頼るのをやめました。
場所で見分ける、というのは、こういうことです。

送信ボタンは、たいていフォームのいちばん下にあります。
いちばん最後に押すものだからです。
役割で見分ける、というのは、そのボタンを押したときに、書いた内容が持っていかれるかどうかを見る、ということです。
この2つを足すと、文字が読めなくても、だいたい正しいものが選べます。

ついでに、逆の間違いも減らしました。
「送信」の文字が入っていれば何でも押す、というわけにもいきません。

「送信履歴」「送信されたメールについて」──
文字としては当てはまりますが、押すものではありません。
文字だけで決めていたころは、こういうものも、ときどき押していました。

■ 人間のためのデザインが、機械を門前払いしていた

直したあと、その50社をもう1度回してみました。
ほとんどが、ふつうに届きました。
何か月も届いていなかった会社が、空白を1つ落としただけで届くというのは、うれしいような、情けないような話です。

ついでに、この50社の内訳も数えてみました。

「送 信」のように空白が入っていたもの。これが半分ほど。
「送信する」のように余計な文字が付いていたもの。これが3割ほど。
英語のボタンだったもの。残りです。
どれも、こちらが決めた「ぴったり同じであること」に当てはまらなかっただけでした。

相手のページには、何の落ち度もありません。
むしろ、「送 信」と書いているページのほうが、人間にとっては読みやすく作られています。

読みやすくするための工夫が、こちらの都合で、そのまま門前払いになっていたわけです。
こういうことは、たぶん、他にもあります。
人間のために整えられたものほど、機械には扱いにくい形をしています。

■ 「人間には同じに見えるものが、機械には違って見える」

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その扱いにくさを、相手のせいにしないこと。
これは、このツールを作るうえで、けっこう大事な心構えでした。
この回は、他の回に比べると、ずいぶん軽い話です。
原因も単純で、直すのも簡単でした。
半日ほどで終わってしまいました。

それでも、覚えていることが2つあります。

1つは、困ったときは、まず機械に喋らせること。
こちらが「見えているはずだ」と思っているものと、機械が実際に見ているものは、しばしば違います。
その違いは、想像していても分かりません。
喋らせれば、3行目で分かります。

もう1つは、この1行です。
人間には同じに見えるものが、機械には違って見える。
そして、その逆もある。
人間には別のものに見えていて、機械には同じに見えているもの。
こちらのほうが、ずっと厄介でした。

前者は、直せば終わりです。
空白を落とせば、同じものになります。

後者は、そうはいきません。
同じに見えているものを別のものとして扱うには、何を見れば違いが分かるのかを、こちらが決めてやらなければいけません。
その「何を見るか」を決めるのが、いちばん時間のかかる仕事でした。

次はその話になります。

(つづく)


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