これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

「私はロボットではありません」の罠。初期の除外ルールを見直す
改良の報告を聞いた現場から、こんな言葉が返ってきました。
「いや、素人考えなんだけどさ」
現場は、そう前置きしました。

こういう前置きのあとに出てくる話がいちばん効くことを、このあと何度か思い知ることになります。
「フォームがちゃんと表示されているのに、うまく書き込めていない例はないの?だって、書き込めさえすれば、送れるはずだよね」
当たり前のことを言われた、と最初は思いました。
書き込めれば送れる。それはそうです。
こちらは何か月も、その「書き込む」を作ってきたのですから。
「そこは、だいぶ良くなってきていて」
そう答えかけて、言葉が止まりました。
書き込めれば送れる。
──では、そもそも「書き込みにいっていない」ページは?
■ 開発の初日から「触れてはいけない領域」として避けていた場所
実は、最初から手をつけずに避けていた一群がありました。
「私はロボットではありません」──
あの、おなじみの仕組みが置かれているページです。

全体の1割以上ありました。
触れてはいけない領域として、いちばん最初に除外していました。
除外を決めたのは、開発のいちばん最初の日でした。
あの印が出ているページには、近づかない。
迷ったら、やめる。
その判断そのものは、いまでも正しかったと思っています。
問題は、その判断を1度も見直さないまま、何か月も走らせていたことのほうです。
最初に決めた線は、たいてい、いちばん粗い線です。
粗いまま置いておくと、粗いなりに、毎日仕事をします。
そこで、その前提の後ろ半分だけを疑い直してみました。
あの印が出ているページは、本当に、ぜんぶ人に確認を求めているのだろうか。
■ 「私はロボットではありません」の仕組みには、世代があった
調べてみると、あの仕組みには世代がありました。
古い世代は、はっきりと人に確認を求めます。
絵を選ばせたり、文字を読ませたりする、あれです。
これは、こちらから何もできません。
するべきでもありません。
ところが新しい世代は、人に何も求めないのです。
裏側で静かに様子を見ているだけで、訪問者にとっては、ただの普通のフォームです。
人間が訪れても、何も出てきません。
名前を書いて、用件を書いて、送るだけです。
試しに、そういうページを自分でいくつか開いてみました。
名前を入れ、用件を入れ、送信を押す。
それだけで、完了の画面が出ました。
1度も、絵を選ばされませんでした。
文字を読まされることもありませんでした。
このとき、少しだけ手が止まりました。
これは、避けるべきページなのだろうか。
訪問者に何も求めていないページを、「求めている」と決めつけて避けていたのは、こちらではないか。
ただ──新しい世代も、ページの隅に、小さな印だけは必ず表示します。
そして、こちらの除外の決まりは、その小さな印の名前を1つ探すだけの、ごく短いものでした。
3行ほどでした。
その3行が、全体の1割以上を、中身も見ずに捨てていました。
あっ、と思いました。
こちらは、看板だけを見て、門前で引き返していた。
見分けるのは、思ったより簡単でした。
どちらの世代も、ページの隅に印を置きます。
ただ、その印の中に書かれている符丁が、世代ごとに違うのです。
人間には読めない、短い文字列です。
それを見れば、どちらの世代かは、はっきり分かります。
こちらは、その中を1度も見ていませんでした。
箱の外側だけを見て、中身を決めつけていたことになります。
■ 箱の外側ではなく、中身を見てから「見送る」と決める

除外していたページを、実際に取り寄せて、世代を数えました。
これは、久しぶりに気の重い作業でした。
数えた結果が「やっぱり全部だめでした」になる可能性も、じゅうぶんにあったからです。
その場合、この2日ほどは、まるごと無駄になります。
1つずつ開いて、印の中身を確かめ、古い世代か、新しい世代かを、表に書き込んでいく。
2日かかりました。
途中で何度か、数えるのをやめようかと思いました。
半分まで数えて、古い世代ばかりが続いた時間もありました。
半分を過ぎたあたりで、傾きが見えてきました。
7割近くが、新しい世代でした。
人に何も求めていない、普通のフォームだったのです。
およそ600社。
「無理だ」と思い込んで、最初から見もしなかった会社が、それだけありました。
見分けの基準を書き直しました。
人に確認を求めるものは、これまでどおり、そっと見送る。
求めていないものは、普通のフォームとして扱う。
ここは、いまも変えていません。
これからも変えるつもりはありません。
線の引き方も、変えました。
以前は「印があれば避ける」でした。
いまは「中を見て、人に確認を求めていれば避ける」です。
見るものが1つ増えただけです。
その1つを見にいくかどうかで、600社が変わりました。
むしろ、手間は前より増えました。
以前は、印を見つけた時点で終わりでした。
いまは、印の中身まで見にいきます。
見送るものを、きちんと見送るために、前より丁寧に見分けるようになった、というだけの話です。
古い世代のページに行き当たったときは、何もせずに、静かに閉じて次へ行きます。
埋めかけた欄も、そのまま残しません。
訪ねた記録だけを残して、離れます。
こういう振る舞いは、成績表には出てきません。
出てきませんが、ここを雑にすると、いつか必ず、良くないことが起こります。
現場にも、この線の引き方は、そのまま説明しました。
「増えるほうは分かったけど、避けるほうは、前より厳しくなったってこと?」
「厳しくというより、細かくなりました。これまでは、見もせずに避けていたので」
「じゃあ、見たうえで避けてるわけだ」
そのとおりです。
結果として見送る数は減りましたが、見送ると決めた1件については、前よりはっきりした理由が残るようになりました。
理由が残っていれば、あとから数えられます。
数えられれば、その判断が正しかったかどうかを、いつでも確かめ直せます。
■ いちばん大きな鉱脈は「無理だ」と札を貼った箱の中にあった

あの一言がなければ、この600社はこれからもずっと、見えないままだったはずです。
しかも、見えないままであることに、こちらは1度も気づかなかったでしょう。
除外したものは、記録に残りません。
試して駄目だったのなら、失敗として1行が残ります。
試してさえいないものは、最初から数に入っていないのです。
成績表は、こちらが見た範囲のことしか教えてくれません。
このことに気づいてから、成績表の見方が少し変わりました。
いちばん下の行に、「そもそも試さなかった数」を書き足しました。
見ていて、あまり気持ちのいい数字ではありません。
だからこそ、書いておくことにしました。
いちばん大きな鉱脈は、「無理だ」と札を貼った箱の中にありました。
札を貼ったのは、他でもない、こちら自身でした。
このあと、他にも札の貼ってある箱がないか、一度探してみました。
いくつか出てきました。
どれも、開発の初めの頃に「これは無理だろう」と決めて、そのまま触っていないものばかりです。
全部が鉱脈だったわけではありません。
開けてみて、やはり無理だったものもあります。
それでも、開けたことには意味がありました。
無理だと確かめたぶん、札の文字が変わったからです。
「たぶん無理」と「確かめた結果、無理」は、別のものでした。
そして、600社の箱に貼り直した札は、このときはまだ、「たぶん行ける」でした。
(つづく)
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