これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

良かれと思った改良が数字に表れない? 2000件のエラーログから見つけたボトルネック
夏の終わりに、大きめのテストを行いました。
10台のパソコンで、10000件あまり。
まる1日以上、機械たちは休まずに働きました。
10000件の内訳は、これまでに1度も訪ねていない会社が大半でした。
この数週間、細かい改良をいくつも重ねていました。
呼び名の一覧を増やし、注意書きの読み方を直し、止まったときの後始末も、ずいぶんましになっていました。
正直なところ、期待していました。
これだけ直したのだから、動かないはずがない、と。
結果を開いて、少し黙りました。
前の版と、ほとんど同じ成績だったのです。
上がってもいない。下がってもいない。
数週間分の改良が、数字の上では何ひとつ動いていなかったことになります。
これは、こたえました。

■ 改良を重ねたのに成績は横ばい。行き詰まる原因究明
現場には「今回はほぼ横ばいでした」とだけ伝えました。
「そういうこともあるよ」と言ってもらえましたが、こちらとしては、理由が分からないのがいちばん落ち着きません。
「なぜだろう」
いつもなら、うまくいかなかった会社を開きます。
このときも、何社か開いてみました。
開いてみると、フォームは、ふつうにそこにありました。
自分で埋めれば、ふつうに送れました。
20社ほど開いて、20社ともそうでした。
これでは、直す場所が決まりません。
困ったときの手が尽きたので、うまくいかなかったものを、いろいろな切り口で分けてみることにしました。
業種で分けてみました。
何も出ませんでした。どの業種にも、同じ割合でいました。
地域で分けてみました。
これも同じでした。北も南も、変わりません。
ページの重さで分けてみました。
重いほうが少しだけ多い気もしましたが、はっきりした差とは言えませんでした。
こういう作業は、やっているあいだ、ほとんど手応えがありません。
何も出ないことを確かめるために、半日を使う。
それを何度か繰り返す。
2日ほど、こういうことをしていました。
あとから振り返れば、この2日は無駄ではありませんでした。
「相手の事情ではない」ということを、いちおう、確かめたことになっていたからです。
■ 諦めた秒数を並べたときに見えた「165秒の壁」
そして、ほとんど諦め半分で、いつもと違うことを試しました。
うまくいかなかった2000件あまりについて、中身をいったん忘れて、
「何秒かかって諦めたのか」
という数字だけを、ひたすら並べてみたのです。
会社の名前も、業種も、ページの作りも、いっさい見ない。
秒数だけを、小さい順に並べる。
そして、その並びを見た瞬間、椅子から立ち上がりました。
諦めた会社の9割以上が、160秒から200秒のあいだに、きれいに固まっていた。
ばらけていませんでした。
ひとかたまりでした。
いろいろな会社の、いろいろな事情で失敗しているのなら、秒数はもっとばらけるはずです。
早く諦めるものもあれば、遅く諦めるものもある。
そうなっていて当然です。
こんなふうに、同じところに集まる理由がありません。
集まっているということは、相手の事情ではなく、こちら側の何かが、全部を同じ場所で切っているということでした。
見張り役が「もう駄目だ」と判断する設定値を、確かめました。
165秒。
そして──
うまくいった会社のうち、時間がかかったほうから1割は、162秒。
その差、3秒。

■ 仮で置いた「3分」のタイムアウトが、1400社を静かに切り捨てていた
しばらく、その2つの数字を見ていました。
ここで、この165秒がどこから来たのかを調べました。
誰かが「まあ、3分くらい待てば十分だろう」と決めた数字でした。
根拠は、特にありませんでした。
測ったわけでも、比べたわけでもない。
その数字を置いたときのことは、覚えていました。
まだ1台しかなかったころです。
どこかに区切りを入れないと、いつまでも終わらない。
3分くらいでいいだろう、と決めました。
あとで測ろう、と思ったはずです。
思っただけで、そのままになっていました。
仮のつもりの数字が、そのまま何か月も居座って、毎晩、静かに線を引いていたことになります。
しかも、その線は記録のどこにも出てきません。
線に引っかかったものは、ただ「送信できませんでした」と書かれるだけです。
念のため、諦めた会社のページを実際に開いて数えてみました。
3分の2には、フォームがちゃんとそこにありました。
壊れてもいなければ、断られてもいない。
ただ、少し重かっただけのページです。
つまり、およそ1400社は、「無理だった」のではなく、あと少しだけ待てば、届いていた会社だったのです。
さらに悪いことに、当時の仕組みでは、1度諦めた会社は「処理済み」として記録され、次からは2度と試されないようになっていました。
1400社が、静かに失われていました。
しかも、失われたことが記録の上では「済んだこと」として並んでいました。
■ 1件を深く開く目と、2000件を俯瞰して並べる目
考え方を、根本から入れ替えました。
「時間が来たら切る」のをやめる。
「作業が進んでいるなら、何分でも待つ。
本当に止まったときだけ、切る」
機械が、小さく手を挙げ続けるようにしたのです。
「まだ動いてます」「まだ動いてます」と。
手を挙げる、といっても、大したことはしていません。
ページの読み込みが進んだ。
欄が1つ埋まった。
画面が切り替わった。
そういう出来事が起きるたびに、「まだ動いてます」と一言だけ残す。
見張り役は、その一言が途切れたかどうかだけを見ます。
中で何をしているかは、見ません。
中を見ようとすると、また同じ部屋に入ることになります。
手が挙がっているあいだは、待つ。
手が下りたら、そこで初めて切る。
時間ではなく、進んでいるかどうかを見る。
言葉にすれば、それだけの違いです。
あわせて、1度諦めた会社を「処理済み」にするのも、やめました。
諦めたものは、諦めたものとして残す。
あとで、もう1度訪ねられるようにしておく。
入れ替えたあと、まず小さく試しました。
前に諦めた会社ばかりを1000社ほど集めて、走らせてみます。
結果を見て、今度は静かに息を吐きました。
半分以上が、届いていました。

同じ会社です。ページも変わっていません。
変わったのは、こちらの待ち方だけでした。
成績は、はっきりと上がりました。
100社に2社だったところから、5社に1社が届くところまで、来ていました。
現場には、いつもより長い報告をしました。
「3秒でそんなに変わるの」
変わりました。
正確には、3秒ではなく、時間で切っていた決まりのほうが問題でした。
この回で、いちばん学んだのは、たぶんこれです。
うまくいかなかったものを1つ開いても、分からないことがある。
そういうときは、2000件を一列に並べてみる。
1件を開くのと、全部を並べるのは、別の目でした。
そして、並べるときには、いつも見ているものを、いったん見ないほうがいい。
会社の名前を見ていたら、たぶん、あの並びには気づけませんでした。
ただ、このときもまだ、最初から「無理だ」と決めて、1度も試していない相手が残っていました。
(つづく)
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