リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第4話「送られた手紙を、読む」

リストル:フォームリーチツール開発奮闘記 あ と 3 秒― まだ終わっていない、あるツールの開発記 ―第4話「送られた手紙を、読む」 フォームリーチ開発日誌

これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。

派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。

あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。

書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。

けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。

『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

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テストは完璧でも中身は不自然。自動化ツールにおける「人間視点」の検証手法

あるとき、新しい機能ができあがりました。

相手の会社に合わせて、書き出しの一文を用意する。
「貴社の◯◯という取り組みを拝見し──」
という、あの1行です。

考え方の出どころは、現場の話でした。

「同じ文章を1000社に送るのは、誰も読まない手紙を、1000通書くのと同じだよ」

「うちに来る営業のメールも、たいてい途中で読むのをやめるでしょう。
あれは、自分に宛てて書かれていないと分かるからだよ」

そう言われて、思い当たるところがありました。

同じ文面を1000社に送るのは、1000社分の時間を、少しずつ奪うことでもあります。

せめて1行だけでも、その会社のことに触れていれば、読むかどうかを決める段階までは、辿り着けるかもしれない。

■ 完璧なテストをすり抜けた、不自然な手紙

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動作は完璧でした。

狙ったとおりの位置に、狙ったとおりの一文が入りました。
試しに20社分作らせてみて、20社とも正しく入りました。
設計どおりでした。

念のため、送ったものを自分宛にも1通、届くようにしてみました。
これは、特に理由のある思いつきではありません。
なんとなく、実物を見ておきたかっただけです。

いま思えば、この「なんとなく」が、このツールの向きを1つ変えました。

テストは、20社分通っていました。
通っていたのは、「一文が正しい位置に入ったか」です。

誰も、手紙として読んではいませんでした。

開いてみました。

貴社サイトを拝見し、感銘を受けました。
株式会社◯◯◯◯
ご担当者様
はじめまして。突然のご連絡失礼いたします──

しばらく、画面を見ていました。

挨拶より先に、本題が来ていたのです。

■ 「本文の先頭」という言葉の、人間と機械のすれ違い

声に出して読んでみると、なお変でした。
いきなり感銘を受けて、そのあとで、はじめまして、と名乗っている。

道で知らない人に肩を叩かれて、「素晴らしいですね」と言われたあとに、「はじめまして」と続くようなものです。

念のため、他の会社分も読んでみました。
どれも同じでした。

20社分、きれいに、同じ変な形をしていました。

現場にも見せました。

「これは、送っちゃ駄目なやつだね」

笑っていましたが、そのとおりです。

この文面を1000通送っていたら、届いた数が増えるほど、印象は悪くなっていたはずです。

届くことと、読まれることは、別の話でした。

プログラムは、何ひとつ間違っていません。
指示どおりに、正しく動いていました。

指示が、こうだったからです。

「用意した一文を、本文の先頭に置くこと」

本文の先頭。
こちらの頭の中では、それは「挨拶のあと、用件が始まるところ」でした。

機械にとっては、そうではありません。
本文の先頭は、いちばん上の1行目です。

宛名も、挨拶も、その下にありました。

その指示を書いたのは、自分でした。
書いたときには、何の疑いもありませんでした。
本文の先頭、と書けば、伝わると思っていました。

伝わっていました。伝わりすぎるくらい、そのとおりに。

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あっ、と思いました。

同じ言葉を、2人が別の意味で受け取っていた。
コードを何時間眺めても、絶対に気づけない種類の行き違いです。
書いてあるとおりに動いているのですから、どこにも直すところがありません。
実際に送られたものを読んだから、分かりました。

書き出しの一文は、宛名の下へ引っ越しました。

■ 見ていたのは実物ではなく「実物によく似た別物」

ついでに、送信前の確認画面も見てみることにしました。

こちらのツールには、送る前に文面を確かめる画面があります。
現場の方が、目で見て確認するためのものです。

これも、はじめから疑っていたわけではありません。

文面を直したのだから、確認画面にも同じものが出るはずだ。
その「はず」を、1度だけ確かめてみようと思っただけです。

並べて見比べるまで、5分もかかりませんでした。

その画面に表示されている文章と、実際に送られる文章が、微妙に違っていました。

改行の数が違う。
署名の前の1行が、片方にはあって、片方にはない。
会社名の入り方も、少し違っていました。

どれも小さな違いです。
小さいから、しばらく気づきませんでした。

現場の方は、この画面を見て、送るかどうかを決めています。

その画面が実物と違っているというのは、言葉にすると、なかなか具合の悪い話です。

見ていたのは、実物ではなく、実物によく似た別物でした。

理由は単純でした。
確認画面をつくる係と、本番を送る係が、同じ仕事を、別々に覚えていたのです。

最初に片方を作り、あとから同じものを、もう片方にも書いた。
そのあと、片方だけを直した。

ここでも、笑ってしまうことがありました。

書き出しの位置を直したとき、最初に直したのは、確認画面のほうだったのです。

画面はきれいになりました。
文面も、読んでみて自然でした。満足しました。

そして、実際に送られていたのは、相変わらず、挨拶より先に本題が来るほうでした。

2日ほど、そのことに気づきませんでした。

同じことを2か所に書くと、いつか必ずずれる。

直し方は、地味です。
文面を組み立てる係を、1人だけにする。
確認画面も、本番も、その1人に聞きにいく。

それだけです。

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■ 数字の成績表には現れない「日本語としての見え方」

この直しは、まる1日かかりました。
新しいことは、何ひとつしていません。
同じことを2か所に書いてあるのを、1か所にまとめただけです。

直したあと、画面の見た目は何も変わりませんでした。
現場に報告することも、特にありませんでした。

こういう日が、ときどきあります。

何かができるようになったわけでもなく、何かが速くなったわけでもない。ただ、これから先、同じずれ方をしなくなる。

その日の作業を人に説明しようとすると、いつも、うまく言えません。
「昨日は何をしていたんですか」
「同じことが2か所に書いてあったので、1か所にしました」
「……それで、何が良くなったんですか」
「何も良くなっていません。これから悪くならなくなりました」

言っていて、自分でも変な気がしました。
それでも、たぶん、そういう仕事です。

それでも、この直し方には、思っていたよりも大きな効き目がありました。
以後、文面に関する直しは、どこか1か所を直せば、必ず両方に反映されます。
「片方だけ直っている」という状態が、起こりようがなくなりました。

もう1つ、この回から始まった習慣があります。

送ったものを、ときどき自分で1通、読む。
送った文面は、そのまま保存しておくようにしました。
あとから、いつでも読み返せます。

読み返すと、たいてい、直したいところが1つ見つかります。
数字を眺めていても、それは見つかりません。

成績表の数字は、送った結果を教えてくれます。
届いたか、届かなかったか。けれど、送られた手紙が日本語としてどう見えるかは、教えてくれません。

数字の上では、あの文面もきちんと「届いた1件」として数えられていました。

その数字と正面から向き合う日が、夏の終わりに来ます。

(つづく)


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