これは、一つの営業支援ツールが少しずつ賢くなっていく、いまも続いている記録です。
派手な話は、ほとんど出てきません。
天才も、閃きも、一夜にして世界が変わる瞬間もありません。
あるのは、うまくいかなかった一件を実際に開いて、「なぜだろう」と眺めるところから始まる、ずいぶん地味な時間の積み重ねだけです。
書いていて少し気恥ずかしいのは、出てくる間違いの多くが、笑ってしまうほど単純なことです。
けれど、その単純な間違いを一つずつ拾っていくうちに、成績は「200社に2社」から「5社に1社」まで動きました。
改良の回数は、300を超えています。
『リストル:フォームリーチツール改善奮闘記』によろしければ、お付き合いください😊

台数を増やせば解決するわけではない。自動化ツールが直面するフリーズの壁と見張り役の配置
ある朝、10台のうちの4台が、前の晩とまったく同じ画面のまま、そこにありました。
止まってしまうのです。

台数を10台まで増やしたのは、この少し前です。
1台では、一晩でこなせる数がどうしても足りませんでした。
なら、机を並べて、手分けすればいい。
考え方としては、単純な話です。
■ 機械は「ひと呼吸」を置かず、黙って待ち続ける
ただ、1台が座り込むと、そのぶんの仕事がまるごと止まることも、同時に増えていました。
10台のうち四台が止まるというのは、その晩の仕事が、半分近く消えたということでした。
止まる場所には、少しだけ共通点がありました。
読み込みがなかなか終わらないページ。
外から部品を取り寄せていて、その取り寄せ先が返事をしないページ。
人間が見ていれば、「ああ、重いな」と思って、ひと呼吸置くところです。
機械は、ひと呼吸を置きません。
黙って、待ち続けます。
どのくらい待つのかを、一度、確かめてみたことがあります。
止まっている台を、そのまま放っておきました。
30分。
1時間。
昼を過ぎても、同じ画面のままでした。
こちらから見れば、何もしていないのと同じです。
機械の側では、たぶん、まだ待っているつもりでした。
「時間が来たらやめなさい」という命令は、もちろん最初から入れてありました。
ところが、ここに思い込みがありました。
その命令を受け取る係そのものが固まってしまうと、命令は、誰にも届かないのです。
受付の人に、呼び鈴の役目も任せていた。
その人が居眠りしてしまえば、呼び鈴を何度鳴らしても、誰も出てこない。
これは、あとから考えれば当たり前のことです。
止まったときに動いてほしい仕組みを、止まる場所と同じところに置いてはいけません。
当たり前ですが、作っているときには気づきません。
作っているときは、動いている状態しか見ていないからです。
動いている状態では、どこに置いても、ちゃんと働きます。
■ 見張り役も一緒に眠ってしまった、恥ずかしい勘違い
そこで、見張り役を置くことにしました。
外側から様子を眺めていて、しばらく返事がなければ、そのぶんは諦めて次へ進む。
これで解決だと思いました。
最初に作った見張り役は、まったく働きませんでした。
理由は、書くのが少し恥ずかしい話です。
見張り役を、見張る相手と同じ部屋に置いていたのです。

部屋ごと動かなくなるのですから、当然、見張り役も一緒に黙り込みました。
この勘違いには、二日ほど気づきませんでした。
見張り役を入れたあとも、止まる台は止まったままです。
「見張りが甘いのだろう」と思って、様子を見る間隔を短くしたり、判断を厳しくしたりしました。
どれも効きませんでした。効くはずがありません。
見張り役ごと、眠っていたのですから。
外へ出しました。今度は動きました。
ところが、記録には何も残りません。
諦めたはずなのに、記録の上ではすべての作業が「実行中」のままでした。
調べてみると、これもまた、間の抜けた話でした。
諦めた記録を、「諦められた当人」に書かせる作りだったのです。
固まっている本人に、「あなたはいま固まりました、と書いておいてください」と頼んでいたわけです。
当然、その一行は永遠に書かれませんでした。
そこを直して、ようやく見張り役が働き始めます。
ところが──
今度は、画面全部が動かなくなりました。
しかも、600社ほどを流している最中に。
■ 諦めたはずの古い作業が、新しい作業と画面を取り合う
朝、記録を開いて、しばらく黙りました。
このときは、少しだけ落ち込みました。
直したはずのものを直したせいで、前より大きく転んでいたからです。
見張り役を入れる前は、一台が座り込むだけでした。
入れたあとは、画面ごと動かなくなりました。
良くしたつもりの手が、悪いほうに効くことがある。
これは、このあとも何度か経験することになります。

このときの調べものは、地味というより、退屈でした。
止まった台の記録を、時刻の順に並べて、最後に何をしていたのかを、一つずつ読む。
同じことを、4台分。
半日ほど読んでいるうちに、共通点が見えてきました。
止まる直前には、必ず2つの作業の名前が、ほとんど同じ時刻に並んでいたのです。
片方は、新しく始まったばかりの作業。
もう片方は、とっくに諦めたはずの作業。
諦めたはずの名前が、そこにいる。
あっ、と思いました。
諦めるとは、こちらが目を逸らすことでしかなかった。
相手は、なくなっていなかった。
こちらが「もう終わったこと」として次へ進んでも、
あちらは、まだ前のページの前に立っている。
新しい作業と、古い作業。
2つが、同じ画面を取り合っていました。
見張り役を置いたことで、こちらは安心していました。
安心しただけで、その場は何も片付いていなかった。
■ 「止まらなくなった」ことと「届いている」ことの違い
このときの答えは、少し思い切ったものでした。
作業を、まったく別の部屋へ引っ越させる。
同じ部屋にいるから、巻き添えを食う。
なら、部屋を分けてしまえばいい。
中でどれだけ深く固まっていようと、外から扉ごと閉められるようにする。
閉めたあとの部屋には、誰も残らない。
最初のうちは、閉めたはずの部屋に使いかけの荷物が残っていて、それが少しずつ積み上がっていきました。
夜のうちは気づきません。朝になって、机が荷物で埋まっている。
部屋を閉めたら、そのつど中を空にする。
この片付けを足して、ようやく落ち着きました。
もう一つ、引っ越したあとに気づいたことがあります。
扉を閉めるのが、少しだけ早すぎたのです。
本当に固まっている部屋なら、閉めて構いません。ところが、送信の最中で、ただ返事を待っているだけの部屋も、同じように閉めてしまっていました。
こちらから見れば、どちらも「黙っている」だけです。
黙っている理由までは、外からは分かりません。
このときは、閉めるまでの時間を長めに取り直すことで、いったん収めました。
この「どのくらい待つか」という問いが、あとで、この記録のいちばん大きな話になります。
直しは、はっきりと効きました。

10台のパソコンが、朝まで黙々と働くようになります。
朝、記録を開くのが、少し楽しみになりました。
このころ、現場からは 「ずいぶん安定してきたね」と言ってもらえるようになりました。
朝、止まった台の数を数えるのが日課になりました。
ゼロが続くと、うれしくなります。
しばらくのあいだ、すべてが順調に見えていました。
あとから振り返れば、このときに見ていた「順調」は、止まらなくなった、というだけの意味でした。
そのころ数えていたのは「止まらなかった台の数」であって、「届いた会社の数」ではありませんでした。
止まらないことと、届いていることは、別の話です。
機械は、たしかに朝まで動いていました。
動いてはいましたが、その大半の時間が何に使われていたのかを、このときはまだ、誰も数えていませんでした。
そこに気づくまでには、もう少しかかります。
(つづく)
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